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2000年3月の感想

ちょこっとした感想を「日記のフリ」のほうに書くこともあるので、そちらもどうぞ。

200002200004


『ボクの音楽武者修行』(小澤征爾) (3/1)
『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(遥洋子) (3/16)
『不倫と南米』(吉本ばなな) (3/**)


小澤征爾『ボクの音楽武者修行』新潮文庫

*感想
"スクーターで地べたに這いつくばるような格好でのんびり走っていると、地面には親しみが出る。""五キロおきに人間のつきあいができ、五キロおきに地面に寝っころがって青い空を眺めた。"(p.41)

スクーターに乗ってヨーロッパをめぐり音楽修行。26歳の時に書かれた、24歳の小澤征爾。ブザンソン国際指揮者コンクール入賞から、ニューヨーク・フィル副指揮者に就任するまで、なんだけど、さらさらっとあっさり書かれてる。勉強も努力もしてるんだろうに、それが文章に出てない(のがすごい)。一つ間違えば嫌みになりそうな彼の考え方さえ、なんだか許せてしまってる。旅先から家族へ出した手紙が良い。シンプルなんだけど、ちゃんと心が伝わってくるような手紙。

恩田陸「大きな引き出し」(『光の帝国』)に出てくる小澤征爾のエピソードは、この本に書かれています。

2000/3/1


遥洋子『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』筑摩書房 2000

*感想
苦しい体験というのは、後になると、「充実した時間でもあった」と誇らしい気持ちが加わってくる。あえて苦しい時間を作る必要はないと思うけれど、自分のしたいことがどうしても苦しい時間になってしまうというのなら受け入れられるような気がする。だから、著者が東大で上野千鶴子教授のゼミに入って四苦八苦している姿も、「やりたいことがあって、そのために苦労している」とわかるから、とってもうらやましいのだ。気軽にとか、なんとなくのなどの、「やりたいこと」はある。でも、死ぬときになって「ああ、充実した時間だった」と思えるくらい、「やりたいことを見つけてそのために時間を費やす」ということが私にはできるんだろうか? 今のままでは、全然「何のための人生なんだろう?」と後悔するに決まっているとわかっていながら、のほほんとした生活をしているだけで。

2000/3/16


吉本ばなな『不倫と南米』幻冬舎 2000

「電話」「最後の日」「小さな闇」「プラタナス」「ハチハニー」「日時計」「窓の外」を収録した短編集。

*感想
何も読めない気分の時のはずが、おまけに短編は嫌いな私が、するすると読めてしまい、不思議。書かれているテーマについて深く考えようとすれば重くもなり、逆に、表面で感じる感覚的なものだけを楽しむことも可能という、そういう読み方ができるからかもしれない。

「最後の日」は、刹那とか、今、という気分を感じる短編で印象深かった。それはたぶん、読んだのが、(生きるとか死ぬということに敏感になりがちな)病院という場だったからだとは思うけれど(なにかを楽しむのに、環境は大きく左右する。確実に)。読みながら、極限から開放、緊張から弛緩へ移ることの心地よさ、素晴らしさを思ってました。血の流れを止めておいて、一気にまた流すような感じに近い。それはまた、地獄から天国、死から生など、ほかにも置き換えられるたとえであって、その時に感じるのは、「いま・いま・いま」の輝き、「生きてることの実感」なんだよなあ。

2000/3


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