想いの行き先

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「なあ、ザックス。一つ聞いていい?」


パソコンを操作していたクラウドが言った。

「なにかな〜〜?」


いつものように雑誌かぶってデスクワークさぼりを決め込むザックスが、鷹揚に答える。


「……この、事務局宛交換条件付き免除始末書……って何?」


ぎく!と、ザックスのみならず、室内にいたソルジャー全員が身を竦ませる。


「……この小隊って、備品破損率が他に比べて異様に高いって本当…?」


そろそろと席を立つ音や、関係なさ下な風を装う不自然な口笛が聞こえる。


「なあ、ザックス……なんでうちだけ、ミッション時の弾薬使用数に上限があったり、弾倉保持が義務づけられてるわけ…?」


だだっと逃げ出したザックスの背中に、机を踏み台にして飛んできたクラウドの蹴りが炸裂する。
そのまま顔面から床に激突したザックスの背中に馬乗りになり、クラウドは声だけは優しく言った。


「前から不思議だと思ってたんだよね。なんで、あんた、ソルジャーなのに事務局のパシリみたいな仕事してるのかなって。……あんた、事務局に借金があったんだな!」
「悪気はなかったんだ!物の弾みだったんだ!」
新入りメンバークラウドに追及され、1stソルジャーザックスは悲鳴のような声を上げた。




「……ザックス小隊が出来てから半年……壊した備品パソコンが4台、机が2台、資料棚1本、完全破損した軍用ジープが2台、小型ヘリが1機、試作用ディトナ1台、部分破損した装甲車と戦車各一台……ってなんで?」
任務中に破壊されたのだとしたら、弁償義務なんて発生するわけない。
ザックス以下、ソルジャー達は乾いた笑いをこぼした。


「いや、……いざという時のために、演習場で操縦訓練をして…」
「ついついムキになってカーレース状態…」
「ぶつけたり、落としたり……」


「パソコンは?」
クラウドは無表情に聞いた。パソコンでレースは無理。


「フリーズしてびびったんで、思わず殴ったり…」
「ふざけているうちに机からたたき落としたり…」
「まあ、いろいろ」
ソルジャー達はへらっと笑っている。


「それで、後始末免除してもらう代わりに経費節減やら、事務局から雑用頼まれたりと、他の小隊ではあり得ない義務が生じてるわけだね」


クラウドは嘆息した。ソルジャー達より年上が揃っているサポートメンバーは、潔くソルジャー達の尻拭いで経費節減に励んでいたわけだ。
「な、なんでばれたのかな〜?クラウド君」
まだクラウドに乗られたままのザックスが、床の上から下手に出る。


「昨日、適正審査で一緒になった一期上の奴らと会ったんだ。で、マーシーってのが、最初、本社事務局の車両保管部に配属されてて」
「車、車両……」
「で、ソルジャーの中で、ミッション中でもないのにやたら車両ぶっ壊す人達がいて、問題になって、ソルジャー棟事務局が一時立て替え弁償する代わりに、他の部署で荒仕事が必要になったときとか、優先的に手伝いに出ることを約束させられたって。そいつ、本社とソルジャー棟の連絡担当の手伝いやってて詳しかったんだ」
「そ、それがなんで俺達だって分ったのかな…?」
「俺、今朝、ジンさんから直接司令書預かってきて渡しただろ?なんでサーじゃなくて事務局から仕事が回ってくるのかなって思ってたら、その時、言われたんだ。『君が入って、頼める用事の幅が広がった。頑張ってくれ』って。……つまり、女装が必要になるような仕事って、その関係だったんだな?」
「い、いや、まあ、ソレはそうだけどさ。お前だって、バイト代出たんだし」
引きつりながら答えたザックスに、クラウドは珍しくにこやかに答えた。


「うん、いいんだ。今までのは、ちゃんと特別手当出てたし…」


そして眦をつり上げる。


「でも今度は、通常業務の中で女装させられるって事だろ?ジンさん、これからその手の仕事持ち込む気満々だったぞ!俺は、女装するために神羅軍に入ったんじゃないーーーーー!」





夜、帰宅したセフィロスに、ザックス小隊の財政難について聞いてみたところ、けろりとして「知っている。車両保管部から、ゴーカート代わりに乗り回されて困っていると、苦情が来たからな。面倒くさいからジンに一任した」と答えられた。
そんな態度で良いのか、ソルジャー総司令。


「それで、ジンから回ってきた仕事はなんだったんだ?」
呆れていたら、逆に問われてクラウドは答えに詰まった。
「……サーの承認を受けていると言ってましたから、ご存じなんじゃないですか?」
「神羅付属幼稚園の交通指導と、パルマーの甥の息子の旅行警護と、スカーレット気に入りデザイナーのショーの警備と、オレが承認したのは今のところそれだけだな。どれだ?」
「……ショーの警備です……俺、女装でモデルの警備担当だそうです…」
セフィロスが並べ上げた内容に、クラウドは情けなくなった。警備班の仕事と変わらない。っていうか、幼稚園で交通指導って何するんだ?道路を渡るときは手を挙げましょう、ってソルジャーがやるのか?交通課の仕事、押しつけられたんだな。


床にぺたんと座ってトレイを抱え、クラウドは表情を変えないまま小さくため息を付いた。クスリと笑みを浮かべたセフィロスが手を伸ばして頭を撫でる。


「この程度の仕事に人員を割ける余裕があるのは、平和な証拠だ。悪いことではない」
「そりゃ、そうですけど……」
そう呟くクラウドの顎に指がかけられ、セフィロスを見上げる格好になった。
「青痣が出来てるな」
上を向いたままじっとしているクラウドの、前髪をそっと避ける。額からこめかみに向けて、痣が出来ていた。
「あ、格闘訓練でぶつけたんです。ポンポン投げられるもんだから、多分、背中とかにも一杯出来てるかも」
Tシャツやショートパンツから覗く細い四肢にも、痣が出来ている。
肌が白いだけに痛々しく、ぱっと見は虐待の痕だ。
「ケアルをかけてやろうか」
「いえ、このままの方が都合がいいんです!」
クラウドが力説する。


「この痣のおかげで、女装警備ですんだんです。この顔じゃ、モデル見習いの設定は使えないって!ザックス、絶対にこの仕事、楽しんでる!」
セフィロスは肩を振るわせた。声を出すのを堪えているのは、一応の配慮だろうか。
「笑いたいのでしたら、どうぞご遠慮なく」
口調や表情は変わらないが、少し斜めになった視線は拗ねているようだ。大きな眼は感情が読みとりやすい。セフィロスは声を抑えて笑いながら呟いた。
「まあ、痣があるのも悪くない」
「はい?」
クラウドは首を傾げる。物問いたげな視線を無視し、セフィロスは淡々と告げる。
「オレは明日からしばらくウータイ行きだ。一応、一ヶ月前後で帰ってくる予定ではある。夜は待たずに休め」
「ウータイって、…まだ何か?」
クラウドは眉根を寄せた。


ウータイとの戦争は、一応は終結した。しかし各地ではまだ戦闘を続ける残存勢力があるし、正規軍からゲリラへと転じた部隊も多々ある。
戦火が拡大したら、また全面戦争に逆戻りもある。
「占領地区の視察が主な目的だ。駐屯部隊が、きちんと現地の人間とコミュニケーションがとれているか、捕虜虐待は行われていないか……などのな」
「……問題があったら?」
「通常は担当者の処罰。だが、地元住民の反発が酷ければ、戦闘になる場合もある。戦線が広がれば、ザックス小隊にも出動命令が出る」
こくんと、クラウドは頷いた。その時は自分もウータイ入りだ。ちゃんと足手まといに成らずに戦えるのだろうか。


「初陣から手柄を立てろなどと誰も期待しない。ウータイ入りしたら、まず生き抜くことを考えろ。お前は――無茶をするきらいがある。もう少し、生き汚くなることだな」
「そんなに無茶してます?」
「最初にあったときの事を覚えているか?お前は4階以上の高さから飛び降りた。助けてとも言わずに」
「……落ちてる途中には考えたんです。『助けて』って言うべきだったかなって」
「次からは、飛び降りる前に考えろ」
納得しかねる風ながらクラウドは頷く。また同じような状況になったら、こいつは躊躇わず、助けも求めず飛び降りるのだろうと思い、セフィロスは薄く苦笑を浮かべた。その顔を見ながら、クラウドは真剣な口調で言う。
「俺の事より、サーの方こそ。気を付けてくださいね」
「オレが何を気を付けると?」
「……サーが誰よりも強いことは知ってますけど、万が一、って事もあるでしょう…?怪我とか…」
「オレのことが心配か?」
セフィロスは面白そうな顔つきになった。


「そりゃ、心配もします。無事に帰ってきて欲しいですから」
過ぎた事を言って不快に取られないかと、クラウドは慎重に言葉を選ぶ。セフィロスが負けるなんて事は考えてないが、それでも戦地に行くと言われると心配になる。
「誰が傷ついても、オレは大抵無傷で帰還だ。心配するな」
「……大抵って事は、たまには怪我もあるって事じゃあ…」
心配性な少年の唇をセフィロスは自分の唇で塞いだ。舌を絡めて深くあわせてから離れると、クラウドは「誤魔化したな」といわんばかりの目つきで睨んでいる。


「怪我が怖くて総司令官が隠れているわけにもいくまい。心配したところで、痛くなるのは確実にお前の胃だけだ。やめておけ」
「……う…」
神経が細い、とそう断言されたような気がして、クラウドは絶句する。
ただ、確かに、クラウドがいくら心配したところで、神羅の英雄は戦いの場へいつも戻っていくのだ。だとしたら、無事に帰ってくると自分に言い聞かせておくしかない。
「わかりました…けど、本当に気を付けて。無茶しないでください」
少し眉根を寄せ、訴えかけるように少年は言う。計算している表情ではないだろうが、なにやら誘われているような気になる顔だ。

「……クラウド、…今夜はオレの部屋で休まないか?」
そうストレートに誘いの言葉をかけてみると、子供は瞬時に真っ赤になった。狼狽え気味に「俺、今日は痣だらけでみっともないと思いますけど…」と答える。声音は低く、聞こえて欲しくないのかも知れないが、あいにくとセフィロスの耳にはしっかりと届いた。
「構わない。それとも、嫌か?」と訊ねると、赤い顔のままで首を振る。
困った目はしているが、拒む気はなさそうだ。
クラウドが自分から何かを求めることはない。だが、セフィロスを拒絶することもない。
この子供にとって自分はどういう存在なのか、それはセフィロスには読みとることの出来ない謎だ。



寝室では、少年は神妙な様子で、まるで訓練の続きでもあるかのように、セフィロスの手つきをそのまま真似してくる。
ぎこちない手で、自分がされているようにセフィロスの性器を愛撫し、自分のものとは違う形と大きさに目を丸くして凝視するのはご愛敬と言うべきか。
ローションを使うと冷たいと言って身を竦ませる。自分も使ってみたいのか、ちらちらと小さいローションのビンとセフィロスの顔を交互に見ている。
まじめな顔で好奇心を発揮している少年の掌に少しローションをこぼしてやる。両手をこすり合わせてローションの感触を確かめている少年に苦笑しつつ、セフィロスのモノに塗ってみるように言うと、ぬるぬるした掌で彼のモノを上下に扱く。
ぬめった感触が面白いのか、熱心に撫でてはいるが性的な雰囲気は薄く、傍目から見ると泥遊びに興じる子供に見えるかも知れない。


性感帯が未成熟なせいか、それとももともと淡泊なのか、セックスと言うより寝技の延長を学んでいるような反応だ。説明付きで手本を見せたらさほどの抵抗も見せずに口淫もあっさり覚えるかもしれないと、セフィロスはいけないことを考える。
こんな感じ方も知らない子供相手に何をしているのか、という気もするが、セフィロスはそのまま行為を続けていく。
長い髪に絡む、少年の細い指に力がこもる。
声を上げようと開きかけた唇を少年は強く噛み、声を堪えた。
肌に残る青痣の隙間に、セフィロスは口付けの痕を残した。ぶつけたのとは違う小さな赤い痣は、たとえ人の目に触れてもキスマークだとは思われないだろう。 堪えきれなくなったのか、少年が細く声を上げる。


そのころには白い裸体は全身桜色に染まり、幼い目元は潤んで強請るような色を見せる。ここまで来れば、あとは遠慮なく突き上げてやる。クラウドは泣き出しそうに顔をゆがめると、身体を大きくのけぞらせ、せっぱ詰まった声を上げて達した。
普段は極力感情の発露を抑えようとしている子供が、堪えようもなく声を上げ、すがりついてくる様は肉体の快感以上の満足をセフィロスに与えた。
繋がっていた体を離すと、仰向けになった広い胸にもそもそと頬をすり寄せ、子供はそのまま熟睡する体勢に入った。すでに閉じかけの瞼を眺め、ふと気が付いて聞いてみる。


「お前、女扱いされるのを嫌っていたはずだが」
「……うん…女顔って、ずいぶん馬鹿にされたから…嫌い」
「では、なぜ、オレと寝る?」
「……んーと…好きだから…かなぁ…?」
疑問符付きでは愛の告白とは言えない。もっと突っ込んで聞きたいところだが、子供はすでに夢の中だ。
「……よくわからん…」
セフィロスは額を抑えて呻った。子供の心理はやはり謎だ。




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