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アプルビイの事件簿/M.イネス

The Casebook of Appleby/M.Innes

1978年発表 大久保康雄訳 創元推理文庫182-01(東京創元社)

 一部の作品のみ。

「死者の靴」
 “左右違う靴を履いた男”という謎に対しては比較的早い段階で合理的な解答が示され、あとはサスペンス中心か、と思わせておいてのどんでん返しがよくできています。メリットが持ち出したダミーの犯人や、アプルビイの思わせぶりな言葉が巧みなミスディレクションになっていると同時に、デリイという視点人物の存在が非常に効果的に機能していると思います。

「ハンカチーフの悲劇」
 ハンカチーフの動きに着目したアプルビイの推理はよくできていると思います。ただ、最後の決め手とされている血液型は今ひとつ面白味に欠ける上に、ラストの時点では付着した涙がデズデモーナのものではないということが証明されたにすぎず、実際には決め手となっていないところに難があります。

「家霊{いえだま}の所業」
 一堂に会した三人の人物たちによる隠されたドラマを暴いておいて、最後は自然死というオチをつける手腕が見事です。そして、ハイラム氏の陽気な笑いが何ともいえない余韻を残します。

「本物のモートン」
 裏焼きの写真、すなわち鏡像という、意表を突いた着眼点が秀逸です。

「テープの謎」
 モールス信号の方はともかく、蛍光灯が普及している現代ではまったく成立しない作品ですが、それゆえに真相は予想外。普段意識すらしない蛍光灯の音が手がかりになったというのが、実に新鮮に感じられます。

「罠」
 “脅迫状”の筆跡がアイヴァーのものだということが複数の証人によって認められ、アイヴァーがマクレー博士を脅迫していたことは動かしがたい事実のように思われるのですが、それを鮮やかにひっくり返してみせる作者の手腕には脱帽です。

2004.03.16読了

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