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その死者の名は/E.フェラーズGive a Corpse a Bad Name/E.Ferrars |
1940年発表 中村有希訳 創元推理文庫159-20(東京創元社) |
“顔のない死体”といえば“入れ替わりトリック”が王道ですが、本書の場合は人物の入れ替わりこそあるものの、“顔のない死体”になったのは単なる偶然であり、結局は作者が事件を複雑化させるためだけに導入したものだというところが面白いと思います。 被害者であるライマーが泥酔していたにもかかわらず、酒場に寄った形跡はなく、また酒壜も持っていなかった、という謎に対して、ミルン夫人の携帯壜というダミーの真相が非常に効果的です。誰かの家に寄った可能性も当然考えてしかるべきところだったのですが……。そして主要登場人物の中で、ライマーを招いて酒を振舞うことができるのはローズだけですから、そちらの方向からも真相は明らかだったはずです。 事件の真相とともに浮かび上がる、ミルン夫人とローズのダフネをめぐる“綱引き”の構図が印象的です。最終的にはミルン夫人の勝利に終わりましたが、当のダフネにとってはどちらにしても辛い結果になったのかもしれません。 トビーとジョージの役割について、『猿来たりなば』の感想では“解説に書かれているように“ホームズとワトスン役の逆転”とまでは思いませんが”と書きましたが、本書では明らかに“逆転”といえるでしょう。非常に面白い趣向だと思います。 2005.08.16読了 |
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