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赤髯王の呪い/P.アルテ

La Malediction de Barberousse/P.Halter

1995年/2000年発表 平岡 敦訳 ハヤカワ・ミステリ1790(早川書房)
『赤髯王の呪い』
 エヴァ殺しのトリックは、シンプルながら非常に効果的です。エヴァ自身のもともとの計画がうまく取り込まれていますし、画家とモデルを追い払う手口も巧妙です。またその中で、頭に強く焼きついたイメージに操られるようにエヴァの目をつぶしてしまったことが、ツイスト博士にとっての手がかりとなっているところが印象的です。
 30年後を描いたエピローグは、ツイスト博士が約束どおり口をつぐみ続けたことを含めて、何ともいえない感慨をもたらしてくれます。ただ最後の一文には、思わず「そっち(エヴァ)かよ!」と突っ込みたくなってしまいますが。

「死者は真夜中に踊る」
 納骨堂の扉が開かれたときにネタを仕込んでおいて、後になってから仕掛けを作動させるというトリックが面白いと思います。また、首飾りのガラス玉の使い方が実に巧妙で、トリックの一部(棺を動かす手段)でありながらそれ自体がミスディレクションとして作用するという点が非常によくできています。
 しかし、納骨堂の扉を開けるという、ただそれだけのために毒殺されてしまったレオポルド叔父さんが、何ともかわいそうというか……。

「ローレライの呼び声」
 この作品もアルザス地方が舞台になっているだけあって、ドイツ語とフランス語のネタが使われているのが面白いところです。
 ちなみに、方角を誤認させるというトリックには既視感があるのですが、さてどの作品だったか……?

「コニャック殺人事件」
 毒殺トリックの発想はまずまず面白いと思います。背中ならば猫が自分でなめることは難しいでしょうから、スダールのところまで毒を運ぶことは十分に可能だと思われます。ただ、実際にどれだけの量が口に入るのかはわかりません(青酸カリを塗ってから時間がたてば、青酸カリが分解することも考慮する必要があります)し、スダールが猫をなでた後で手を洗ったりすれば効き目がなくなるわけですから、実際に毒殺できるかどうかは微妙だと思います。

 一方、“猫が魚を持ってきた……”というダイイングメッセージは、フランス語の知識がない(“毒{ポワゾン}”は知っていましたが、“魚{ポワソン}”の方は知りませんでした)ので見抜くことはできませんでしたが、それなりに面白いとは思います。しかし、どうしても気になるところが二つ。
 まず、交換手のペルチエの癖を知っていた人々が無意識に発音を修正(ポワゾン→ポワソン)したという真相ですが、かなり時間がたってから(発音を修正した電話の記憶が定着してから)死因が判明したのならともかく、毒殺だということが早い段階で明らかになったのですから、“魚”ではなく“毒”の話だと気づかないのは不自然に感じられます。
 そしてもう一つ、そもそも被害者のスダール自身が毒殺手段に気づく可能性は低いのではないでしょうか。スダールはあくまでも本を読んでいる最中に頁をめくった指をなめて毒を盛られたのですから、まず本を疑うのが自然で、猫にまで思い至るのは難しいように思います。

2006.08.29読了

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