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髑髏の檻/J.カーリイ

Buried Alive/J.Kerley

2010年発表 三角和代訳 文春文庫 カ10-6(文藝春秋)

 本書では、立て続けに死体が出現しながらも決して単調にならず、トラックの下敷きにされたソニー・バートンの遺体をバットで損壊したテイザーリングの登場や、錯乱して銃を乱射したエゼキエル・タナーの死が別の事件のような様相を呈する*1など、捜査陣へのレッドへリングを盛り込みつつ、事件に変化をつけて見せ方を工夫してあるところがよくできています。その最たるものは、冒頭の一幕の主役であるボビー・リー・クレイラインの扱いでしょう。

 まんまと脱走を果たしただけで終わるはずはなく、クレイラインが何らかの形で事件に関わってくることは読者にとって明らかで、身元不明の“ハンダゴテ男”がスレザック弁護士の護衛ブリッジズであることも早々に見当がつくでしょう。他の被害者たちとの関係はまったく見えない*2ものの、“タナーの遺体を半マイルほども担いだ”“絶頂期のマイク・タイソンばりの身体をしている”(いずれも214頁)犯人像はクレイラインに合致します。しかし、クレイラインの再登場、さらにカーソンとの対決を経ての死は、(残りの分量を考えると)あまりにタイミングが早く、ここに来て容疑者が不在となってしまうのがすごいところ。

 そして、クレイラインを負かした男として時おり言及されるにすぎなかったジェシー・ストーンが、ほぼ“枠外”から登場する犯人*3となっているのが非常に秀逸です。クレイラインによる“監禁事件の被害者”だったことが強力なミスディレクションとなっているのはもちろんですが、常識では考えられない形で“生き埋め”(355頁にあるように、原題の“Buried Alive”*4)という行為の意味が反転するのが鮮やか。脱走したクレイラインが穴の中に七週間も隠れていたこと(226頁)とストーンの“監禁”との相似が大きなヒントとなっている感はありますが、よくできた仕掛けなのは間違いないでしょう。

 クレイラインの過去が一つの手がかりとなることで、(ブリッジズを除く)被害者たちの過去のつながり――“ファイト・キャンプ”が明らかになっていく過程は非常によくできています。すぐに全貌が明かされるのではなく、“大佐”の正体など謎が残されているのがうまいところですし、(自身ではなく父親が“ファイト・キャンプ”に関わっていた)ビイル保安官が殺害されたことが伏線となって、ドナ・チェリー刑事の失踪によって“大佐”が誰だったのか示唆される手順も効果的です。

 死体の場所を告知するのに使われた“=(8)=”が、見たままの、股間を守る競技用カップのAAだったという真相には脱力を禁じ得ませんが、ジェレミーが考案したといわれると納得させられるというか(苦笑)。クライマックスのストーンとの対決で、カーソンがブリーフで代用するところ*5もなかなか愉快です。

 行方のわからなかったミスター・ミックスアップが戻ってきたところで、まったく予想外の“犬さらい”が明らかになる結末が巧妙。カーソンがチェリーに問いたださずに終わるところもしゃれています。実に後味のいい幕切れといえるのではないでしょうか。

*1: すべての真相が明らかになってから読み返してみると、タナーの死についての“その死は興味深いものだったか?”(136頁)というジェレミーの問いが、“殺人視察官”(225頁)の役割を暗示していたことがわかります。
*2: “=(8)=”(69頁)“=(5)=”(70頁)の数字の違いから、複数犯に思い至ることも可能かもしれませんが。
*3: “ジェシー・ストーンはアイルランドのどこかにいた。”(295頁)という証言も効果的です。
*4: 今回の邦題は、“ベリード・アライヴ”では意味がわかりにくいですし、“生き埋め”に読者の注意を向けるのは危険ではないかと思われるので、かなり難しかったのではないでしょうか。
*5: クレイラインと対決した際の“ボクサーショーツ一丁”(256頁)に続いて、本書で二度目のパンツ一丁というのがまたすごいところです。

2015.08.12読了