ミステリクロノIII/久住四季
まず、“リグレスト”を取り付けられた真里亜が翌日になるまで気づかなかったというのが疑問だったのですが、“リグレスト”が“たしかに手のひらの上にあるのに、まるでそれらしい感触がないのだった。空気の塊を手に置いているようですらある。”
(141頁~142頁)と描写されているところをみると、着替えなどの際にも気づかなくてもおかしくはないかもしれません(*)。
前作『ミステリクロノII』では“メメント”が“ずしりと手に来る重量”
(『ミステリクロノII』12頁)と描写されているので、“リグレスト”だけが空気の塊のようだというのは少々ご都合主義的な設定にも思えますが、裏を返せば“相手に気づかれないように取り付ける”ことが“リグレスト”の本来の使い方として想定されているともいえます。
一方、作中では“リザレクター”を使って“錠”が真里亜の体から外されていますが、取り付けられた“錠”を外すことで“リグレスト”による退行を止めることができるのであれば、“腕輪”として使う限りは腕がある程度細くなったところで抜けると思われるので、それがいわば“安全装置”になっているとも考えられます。そしてそう考えると、“錠”を真里亜の首に取り付けた芽衣の“計算”の恐ろしさが浮かび上がってきます。
物語終盤は、誘拐犯に対抗する作戦のみならず、芽衣に対する罠も読者に伏せておく必要があるため、慧たちの側の描写(特に心理描写)を控えめにせざるを得ず、解決に至るまでがあっさりしたものに見えてしまうのは致し方ないところでしょう。誘拐犯との対決より芽衣との対決が重視されるのも、当然といえば当然です。
“リグレスト”が前日の放課後に取り付けられたことが判明した時点で、犯人は実質的に須賀揚羽と朔野芽衣の二択になってしまいますし、“リグレスト”の解除(“リ・トリガー”による取り消し)に“鍵”が必要であることを考えれば、「プロローグ」で現場に同行している芽衣が犯人である(“鍵”を持っている)ことも十分に予想できるのではないでしょうか。
しかし、“リ・トリガー”の存在を知らない芽衣は、もし真里亜が自分を頼ってきたとしても、退行を止めることしかできないとわかっていたはず。つまり、仮に“自分を選ばない真里亜なら死んでしまったほうがいい”
(261頁)とまでははっきりと意識していなかったとしても、真里亜が(少なくともある程度は)幼児化してもかまわないとは考えていたことになります。真里亜が自分を選んでくれるかどうかという“試験”としては重すぎるもので、それを選んだ心の“歪み”――クロノグラフの存在がそれを増幅してしまったとしても――が、何ともいえない印象を残します。
それにしても、最初に見つかったクロノグラフが“リザレクター”ではなく“リグレスト”であれば、『ミステリクロノ』で(一応伏せ字)十和子が苦労することもなかった――単純に妊娠以前まで自分の肉体を“退行”させればいい――(ここまで)のかもしれません。
2008.04.14読了