デッドマン/河合莞爾
本書では、島田荘司『占星術殺人事件』さながらの事件が起きるのみならず、死体のパーツをつなぎ合わせた(とされる)“デッドマン”が登場することで、“アゾート殺人の幻想”が補強されている感があります。もっとも、あくまでも“現実的”なミステリの範疇で考えれば(*1)、作中でも臓器移植の専門家である桐原医師が否定している(83頁~89頁)ように“アゾート”の作成は不可能なわけで、“デッドマン”が死体の寄せ集めではないことは明らか。
そうすると、“アゾート殺人”が“デッドマン”を騙すためのものであることはもちろん、“デッドマン”に幻想を植え付けている高坂紫苑が犯人であることまで予想できてしまうのですが、“デッドマン”を騙すためだけに六人もの人間を殺して死体を切断するとは考えにくいものがあり、犯人の動機と狙いが謎となったホワイダニットへと姿を変えるのが秀逸。と同時に、“どのような理由や状況であれば“アゾート殺人”が成立するのか”――すなわち、“アゾート殺人”に対する『占星術殺人事件』とは異なる“解答”となっているのが興味深いところです。
そしてその“解答”は、なかなかよくできていると思います。バラバラに見えた被害者たちをつなぐミッシングリンクとしての過去の事件を介して、犯人の被害者たちへの恨み(*2)が示されるのは納得できるところですし、“デッドマン”こと源田修三の“生きたまま四肢が切り取られたという妄想”
(296頁)を断ち切るために、架空の接合手術を現実だと見せかける必要があったというのも、十分に説得力があるといっていいのではないでしょうか。
“デッドマン”が鏑木に送ったメール(169頁~171頁)の中で、“デッドマン”が警察関係者であることを示す手がかりとなる“オミヤ”(迷宮入り)を“大宮”
(171頁)と“偽装”してあるのも巧妙で、他の誤字と同じように傍点が振ってあるせいでわかりやすくなってはいるものの、面白い謎になっていると思います。序盤から姫野がやたらと警察の符牒を口にしているのも、一種の伏線といえるかもしれません。
記憶を失ったまま高坂紫苑に操られて(*3)、野沢の命を奪おうとした“デッドマン”――源田元刑事ですが、最後に記憶を取り戻すとともに、(何ともやりきれない結末(*4)とはいえ)刑事らしい行動で事件の幕を引いた姿が印象に残ります。
*2: ただしこれを踏まえると、最初の殺人において
“現場には感情が無かった”(46頁)という鏑木の印象が、少々おかしなことになってしまうような気もします。
*3: 「デッドマン / 河合 莞爾 | taipeimonochrome」では、島田荘司の別の作品――伏せ字で挙げられています――との関連に言及されています(恥ずかしながら、内容をほぼ完全に忘れてしまっているので、その関連には思い至りませんでしたが……)。
*4: 現在の事件の発端となったのが、源田自身が書き残した日記だというのも、一層やりきれないものを残しています。
2014.01.23読了