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悪魔はすぐそこに/D.M.ディヴァイン

Devil at Your Elbow/D.M.Devine

1966年発表 山田 蘭訳 創元推理文庫240-03(東京創元社)

 八年前にヴェラ・スティーヴンスの堕胎手術を手配したのが大学関係者であったことが、犯人に疑惑を向けにくくなっている最大の理由であるのは間違いないでしょう。また、三人称多視点による内面描写があること*1も、真相を見えにくくしている要因であると思います。

 そしてもう一つ、“探偵役が誰なのか?”がはっきりしていないことも、真相を隠蔽するのに貢献しているように思います。
 中盤あたりまで読んだところでは、ラウドン教授とルシールの二人が他の人物よりも飛びぬけて頭が切れることがうかがえるので、この二人のどちらかが探偵役となることが予想されます。
 しかしそこから、自身の能力の限界を認識し、亡父やルシール、ラウドン教授らにコンプレックスを抱いていたピーターが、図書館の近くで目撃された女性を特定してルシールの容疑を晴らし、鋭い“推理”を披露してルシールに“あなたの頭脳は、たしかに鍛えるだけの価値があるわね”(343頁)と評されるなど、俄然“探偵役としての存在感”を高めていくため、てっきり“ピーターが失われた自信を回復する”物語なのかと思い込まされてしまいました。
 ピーターの立場からすれば、ルシールの容疑を晴らそうとするのは当然ですし、ルシールが感心した“推理”も実は推理ではなかった*2わけですが、すっかり作者の術中にはまってしまったことは認めざるを得ません。

 真相につながる手がかりとしては、カレンが脅迫状の文字に見覚えがあるというのがよくできています。特に、式典前日の最後の脅迫状――日付が入っていない――についての、“前の脅迫状を見たときとちがって、どうもぴんとこないの”(359頁)という発言によって、以前の脅迫状との違いが重要だというヒントが示されているところが秀逸です。

*1: 当然といえば当然ですが、都合のいいことしか書かれない(都合の悪い描写は割愛される)ためです。
*2: 少し長くなりますが、作中から引用してみます。
 鍵には、玄関の扉を開けるというだけにとどまらない意味がある。消えたウイスキーのグラスの謎も、これで説明がつくのだ。ルシールがいるときに、ハクストンがあくびをしたことも。ルシールが、そしてラウドンまでもが、こんなことに気づかないとは奇妙な話だ。ゆっくり考えさえすれば、ふたりもきっと思いあたることだろう。
 ピーターは、そのことを説明した。
(343頁)
とあるように、推理したようにも読めなくはないのですが、少なくとも“推理した”や“思いついた”といった記述は一言もありません。

2007.10.04読了