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英国風の殺人/C.ヘアー

An English Murder/C.Hare

1951年発表 佐藤弓生訳 世界探偵小説全集6(国書刊行会)

 解説に書かれていた“ダンセイニの或る掌編”とは、(以下伏せ字)「演説」(E.クイーン編『ミニ・ミステリ傑作選』(創元推理文庫)収録)(ここまで)でしょう(私はたまたまこちらの作品を読んでいた上に、図書館で借りた本書にご丁寧に作品名が書き込まれていたために、中心となるネタがわかってしまいました)。英国の貴族制度や政治制度に関する知識をもとにしているために、ややわかりにくい部分もあるかと思いますが、面白いネタであることには変わりないと思います。

 ネタの使い方としては、ダンセイニの作品が(以下伏せ字)被害者(ここまで)の意外性を狙ったものであるのに対し、本書が動機、ひいては真犯人の意外性を中心としたものであるところが大きな相違といえるでしょう。しかしそれだけではなく、本書ではその動機を隠すために工夫が凝らされています。本書の第13章で“新ウォーベック卿”はサー・ジューリアスではないという事実が読者(及び一部の登場人物)に明らかにされていることで、“サー・ジューリアスを貴族にする”という真の動機から目がそらされるようになっているのです。登場人物のどこまでがこの事実を知ったのかがぼかされていることもこれに拍車をかけています。この時点では、むしろブリッグズ父娘の方がより疑わしく感じられます。

 さらにカーステアズ夫人が死んでしまったことで事態は一層混迷を深めています。そして終盤でカーステアズ夫人がなぜ死んだのかを明らかにしていく過程は見応えがあります。

 ただ残念なのは、真犯人を示す証拠があまりないところです。靴が濡れていただけではやや弱いと思いますし、カーステアズ夫人自身が死んでしまっているのではっきりしない部分もあります。もちろん、事件の構図としてはこの解決が一番しっくりするのですが。

2001.09.05読了

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