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月光ゲーム Yの悲劇'88/有栖川有栖 |
1989年発表 創元推理文庫414-01(東京創元社) |
犯人特定の論理は、血に汚れた手を川まで洗いに行った犯人が使ったマッチ(及びマッチ箱)という手がかりを出発点としています。が、犯人特定の決め手となるその意味――マッチが汚れていなかったという事実の重要性が、非常に巧妙に隠蔽されているところが秀逸です。マッチ箱に関する
一方、もう一つの手がかりである“犯行終結宣言”については、 最初の被害者・戸田文雄が残したダイイング・メッセージは、拙文「私的「ダイイング・メッセージ講義」」の分類では「A-2. 変換の問題」・「A-3. 作成の問題」・「C-1. 読み取りの問題」に該当するもので、犯人が“年野武”であることを伝えようとしながら読み間違い(*1)により“としの”というメッセージを残そうとして、途中で力尽きたために不完全な形となり、それを一同が“Y”と誤って読み取るという形になっています。このダイイング・メッセージを成立させるために、登場人物たちが主にあだ名や下の名前で呼び合うという仕掛け(*2)も見逃せないところですが、さらに重要なのは、このダイイング・メッセージにとらわれている限り真相に到達できない――ダイイング・メッセージが真の犯人特定の論理を隠蔽するミスディレクションとなっている点でしょう。
犯人自身も
*1: キャンプファイヤーの際に
“各自の自己紹介”(48頁)があったにもかかわらず、読み間違いをしていたというのは少々気になるところですが、たまたま聞き逃したということもないではないかもしれません。例えば、戸田文雄にファイアーキーパー(火守り)の役が割り振られているなどすれば、作業にかまけていたという理由で読み間違いの説得力が高まったかもしれませんが……。 *2: ただし、この仕掛けによって誰が誰だかわかりにくくなっているという“逆効果”も、無視できないところではあります。 2009.11.08再読了 |
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