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ゆがんだ光輪/C.ブランド

The Three-Cornered Halo/C.Brand

1957年発表 恩地三保子訳 ハヤカワ・ミステリ517(早川書房)

 本書の主要なエピソードは、ホアニータの聖者認定、世継を産むのを拒む大公妃、そして大公暗殺計画といったところでしょうか。

 まず大公妃関連では、カズン・ハットとの会話で“ジェイン・シーモア”が話題に上ったその直後、“アリヴァデルチ、ジェイン・シーモア”(109頁)という大公の言葉を明らかにするという、作者の効果的な演出が光っています。そして、ホアニータの母親である“ラ・マドレー”(“la madre”:イタリア語及びスペイン語で“母”の意*1)を大公妃が“ラ・メール”(“la mere”:フランス語で“母”の意)と呼んだために起きた人物取り違えという真相もまずまずだと思います*2。特に、カズン・ハットの視点による“大公妃が、何故か“ラ・メール”と呼んでいる彼女の母親”(100頁)という記述がなかなかくせもので、それが大公妃の母親であることが規定事実であるかのように装いつつ、“何故か”という表現でそこに疑問を呈している*3ところが秀逸です。

 大公がホアニータの聖者認定の申請を渋る理由は、あまりにもぬけぬけとした真相で、さすがに苦笑を禁じ得ません。確かに、物語序盤に“海賊王ホアンは(中略)その聖なる職にふさわしい候補者を身辺に求めたあげく、すでに海の荒仕事から引退する年令に達していた海賊の一人に、その栄を与え、磨きたてた末、分捕品の大司教用冠をかぶせ、寺院開山を命じたのだった”(55頁)と書いてあるところをみると、ローマ教会とは無関係に勝手に大司教を名乗らせたことがうかがえます。地味ながら、大胆な伏線というべきでしょう。

 そしてクライマックスの場面、もはやローマ教会による認定が不要となるほどのすさまじい奇蹟が最高です。再三言及されていた、魚の鱗でできた代用真珠やエル・ビイエンクイストの自転車の電気といった小道具がうまく使われているのもさることながら、姿を現した“ホアニータ”の意外な正体が見事。そしてそれが、若き日のホアニータの突然の帰依の説明にもなっているところがまたよくできています。

 さらに、爆弾が仕掛けられた香炉をカズン・ハットがあっさりと持ち去ってしまう展開や、その“奇蹟”に改心したトマーソが命がけで持ち出した香炉が爆発しないという愉快な結末、そして大司教の幸福な最期など、文句のつけようがありません。

*1: 「Infoseek マルチ翻訳」によればイタリア語もスペイン語も同じなので、ホアン語でも同じ言葉だと考えていいでしょう。
*2: 例によって日本の読者にはわかりにくいという難点はありますが。
*3: おそらく、自分の母親であれば“私の母親”(フランス語で“ma mere”)というべきなのでしょう。

2007.01.10読了