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不完全な死体/L.ニーヴン
The Long ARM of Gil Hamilton/L.Niven |
1976年発表 冬川 亘訳 創元SF文庫668-04(東京創元社) |
- 「快楽による死」
- 作者としては、“なぜ犯人たちは1ヶ月以上もオーウェンを放置したのか?”という(偽の)謎をミスディレクションにしたかったのかもしれませんが、真相があまりにも身も蓋もないために、ミステリとしては出来がいいとはいえないものになっています。
- 「不完全な死体」
- 移植用臓器の慢性的な不足により、抵抗する術を持たない冷凍睡眠者たちが収奪の対象になり得るという未来像が、強烈な印象を残します。
例えば本文213頁でも説明されているようなオーガンレッガーの心理を十分に把握していれば、脳移植という真相は見えにくくなると思います。ただし、この作品だけではそこまで背景をつかむのは難しいかもしれません。
- 「腕」
- 最初に白状しておきますが、私は力学が今ひとつよく理解できていないので、以下の文章はかなり適当なことを書いているおそれがあります。
ニーヴンが意図したトリックは、装置に結びつけた紐をフィールド外に放り出すことによって、装置の落下を減速させようというものだと思いますが、かなりわかりにくくなっているので、順を追って考えてみます。
フィールド内での重力加速度は“三十二フィート/毎秒毎秒、フィールド時間” (296頁)と表現されています。これは外部と同じ(9.8m/s2=1G)ですが、フィールド内の時間は外部の500分の1ですから、外部から観察すると2,450,000m/s2(=250,000G)ということになります。しかしこれが、フィールド外部からの重力(一定)による作用であることを考えると、F=mgから、フィールド内部では質量(慣性質量)が250,000分の1になっているということになるかと思います。
フィールド内部での装置と犯人の(慣性)質量をp、紐の質量をqとすると、加速度250,000Gで落下しようとする装置を加速度xGまで減速するのに必要な力はp(250000-x)、加速度1Gで落下しようとする紐を加速度xGまで加速するのに必要な力はq(x-1)、これが釣り合うはずですからp(250000-x)=q(x-1)が成り立ち、x=(250000p+q)/(p+q)となります(多分)。装置の重さは50ポンド(22.7kg)以上と書かれている(251頁)ので、犯人の体重と合わせて仮に100kg(すなわちp=0.0004kg)とし、さらに紐の重さを仮にq=0.1kgとすると、x=1001000/1004ですからおよそ997Gになります。これはあくまでもフィールド外部からみたものなので、フィールド内部に換算するとおよそ0.004Gになるでしょうか。犯人は“地面に着くまで三分かかった” (330頁)とのことなので、着地する時の速度は0.72m/s程度ということになります。
というわけで、このトリックは十分に成立するのではないでしょうか。
ただしこのトリックは、前述のようにかなりわかりにくい上に、一応はミスディレクション(装置が一つ現場に残されている)も仕掛けられているものの、その所在、つまり装置が何らかの形で使われていることが見え見えです。この種のトリックを個人的に“ブラックボックス型トリック”と呼んでいるのですが、ブラックボックスの中身がわからなくてもかまわないのと同じように、詳しい仕組みがわからなくても“この装置を使って何とかしたのだろう”というところで読者が思考停止してしまいがちな類のトリックだと思います。
そして、この作品に端的に表れているように、SFミステリの場合にはSF設定が導入されているがゆえにトリックの所在がわかりやすい傾向があり、それがSFミステリの一つの弱点といえるのではないかと思います。
2005.05.12再読了 |
- 「The Woman in Del Rey Crater」
- (以下伏せ字) “足跡のない殺人”といった状況ですが、ハウダニットと思わせてホワイダニットになっているところが面白いと思います。また、“Shreveshield”というガジェットの使い方が工夫されています。(ここまで)
2005.06.02再読了
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