[紹介]
大学のサークルの同窓会で、成城の住宅街にある高級ペンションに集まった男女7人。だが、参加者の一人である伏見亮輔は密かに、後輩の新山和宏を殺害する計画を立てていた。昼食の際に新山に花粉症の薬を飲ませ、部屋に戻って眠り込んだところを浴槽で溺死させる。そして、ドアをロックした上にドアストッパーを仕掛け、現場を密室状態に仕立て上げたのだ――やがて夕食の時間となり、食堂に集まってくる仲間たち。しかし、新山だけが姿を見せず、部屋のドアは閉ざされたまま。薬の副作用でぐっすり眠っているのだろうとみんなが楽観視する中、碓氷優佳だけが状況に疑問を抱いていた……。
[感想]
クローズドサークルものの職人にしてユニークなロジックの使い手である石持浅海の最新作で、今回はさらに倒叙形式が採用され、異色の傑作に仕上がっています。
『扉は閉ざされたまま』という題名からは、岡嶋二人の傑作『そして扉が閉ざされた』が連想されますが、そちらの作品ほどの極限状況――4人の男女が核シェルターに閉じ込められたまま事件の真相を推理する――ではないものの、本書の登場人物たちはペンションの敷地から一歩も出ることはありません。ある意味では、過去の回想場面が多く挿入されていた『そして扉が閉ざされた』よりも本書の方が、作中での登場人物たちの動きが少ないともいえます。それほど動きが少ないにもかかわらず、まったく飽きさせることのない魅力的な物語を作り上げた作者の手腕に脱帽です。
最初に犯行場面が描かれる倒叙ミステリの常として、本書の興味はその犯行がいかにして暴かれるかという過程にあります。そこには『そして扉が閉ざされた』ばりの徹底的な推理があり、また作者お得意の綿密なロジックが披露されるのですが……本書ではそこに一つの趣向が盛り込まれています。目次を見ればわかることですが(見ない方がより楽しめるかもしれません)、(一応伏せ字)「序章」で犯人によって閉ざされた現場の扉が再び開かれるのは、「終章」、しかも最後の一行になってから(ここまで)なのです。実現するのはかなり困難だと思いますが、状況設定に長けた作者はそれを見事にクリアーしていますし、この趣向によって一般的なミステリとは大きく異なる独特のものになっているところも見逃せません。
作者のこれまでの作品では、物語の中で探偵役だけが突出している感がなきにしもあらずだったのですが、倒叙形式が採用された本書では、探偵に対する犯人の対応や心理が明らかにされることで、両者が対等な立場で物語を支配している印象です。結果として、静かに、かつスリリングに展開される犯人と探偵の攻防もまた、本書の大きな魅力となっています。
そしてさらに、最後にはサプライズまで用意されています。伏線を生かしつつ、完全にこちらの意表を突いたもので、非常によくできていると思います。一部気になる点がないでもないのですが、全体的にみればやはり傑作。個人的には、よほどのことがない限り今年のベスト1はこれで決まりです。
2005.05.25読了 [石持浅海] |