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  4. ハローサマー、グッドバイ

ハローサマー、グッドバイ/M.コーニイ

Hello Summer, Goodbye/M.Coney

1975年発表 山岸 真訳 河出文庫 コ4-1(河出書房新社)

 冒頭に掲げられた「作者より」の中ではっきりと“舞台は異星人の住む惑星”と宣言されているにもかかわらず、舞台も登場人物も意図的に地球や人類に似せてある(地球や人類との差異にほとんど言及されない)ことで、“舞台が地球ではない/登場人物が人類ではない”という事実を読者が意識しにくくなっているのは間違いないでしょう。そのことが、物語後半から終盤の重要なポイントとなっているSF設定を隠蔽するミスディレクションとなっているところが、非常に巧妙だといえるでしょう。

 知識が十分でないせいか、第13章でメストラーが語る天文学的な事実は今ひとつピンとこなかったのですが、再三言及される寒さへの恐怖や、山岸真氏の親切すぎる「訳者あとがき」などから、“大凍結{グレート・フリーズ}”が訪れるという設定はある程度予想通り。しばしば特殊な(極端な)舞台設定がなされるSFでは、割とポピュラーなもの*1だということもありますが……。

 政府の陰謀については、ありがちといえばありがちな気もしますが、隣国との戦争を隠れ蓑にしているのは面白いところ。また、細かいところですが、冒頭の“ぼくはなぜ今年は庭がこんなにほったらかしに見えるのだろう、と気になったのを覚えている。”(12頁)という箇所は、一家がアリカの自宅に戻ってこない予定であることを示唆する伏線といえるかもしれません。

 「訳者あとがき」でどんでん返しがあることが明かされてはいるものの、物語終盤の破滅SFさながらの状況は個人の力でどうにかなるようなものではなく、そこからどうやってひっくり返すのかというハウダニット的な興味を持って読み進めていたのですが、残り頁もわずかになったところでの鮮やかな逆転には脱帽。その結末につながる伏線は、366頁~368頁のドローヴの独白に列挙されており、それらが“まもなく、ロリンがやってきた。”(369頁)という最後の一行に結実するカタルシスは、ミステリにおける“最後の一撃”に通じるものがあります。

 四十年*2にわたる“大凍結{グレート・フリーズ}”を、ロリンに助けられた(仮死状態の)“冬眠”で乗り切った後、ブラウンアイズと再会する――希望に満ちた未来を暗示する結末は、強く印象に残ります。

*1: 本書より後に発表された作品ではありますが、ロバート・J・ソウヤー(以下伏せ字)『イリーガル・エイリアン』(ここまで)でも似たような設定が使われていた記憶があります。
*2: もちろんここでの一年は地球の一年とは違うでしょうし、ドローヴの種族の寿命もはっきりしないので、この四十年が地球人の感覚でどの程度にあたるのかは定かではありませんが。

2008.07.16読了