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火の鶏/霞 流一

2003年発表 ハルキ・ノベルス(角川春樹事務所)

 冒頭の“火を吹いて飛ぶ鶏”の謎ですが、カラスが抱えて飛んでいたという真相はまずまず納得できるものの、“別解”として提示された“新作料理の実験の失敗”の方が何となく面白く感じられてしまうところが少々残念です。ただ、そこに小学校の飼育小屋からの鶏盗難事件も絡めてあるところは面白いと思います。

 最初に起きた江草里香子殺しについては、靴の中のトンボ玉と鍵という手がかりによる、犯行現場と犯人の特定がよくできています。特に、犯行現場が里香子の部屋だということが明らかになって初めて、鍵の手がかりが意味を持ってくるところが印象的です。また、犯人である江草雅之が製菓工場跡にある穴の中に死体を隠した点についても、十分な説得力があると思います。ガス爆発によって死体が吹き飛ばされ、松の木に引っかかったというのは無茶なようにも思えますが……。

 次の水之江雄治殺しでは、何といっても密室トリック、というよりも奇抜な“見えない人”トリックが見事です。ドアを監視していた藤巻千晶が、犯人である江草雅之を江草里香子の幽霊だと思い込んだという真相は、そのままではお話にならないほど無茶なものですが、藤巻千晶の隠された信仰(増子博行が見た奇妙な手の形に表れています)、直前に江草里香子の死体を見たこと(藤巻千晶が製菓工場跡に行ったことにも納得できる理由があります)、そして江草雅之の女装した姿(水之江雄治の倒錯した趣味については伏線があります)が相まって、説得力のある状況ができあがっています。さらにいえば、城堂舞門から神秘主義に走ることを厳しく禁じられていたことで、藤巻千晶が“江草里香子の幽霊”を見たことを黙っていることにも不自然さは感じられません。

 最後の江草雅之の死については、下から竹槍を突き刺されたのではなく、首吊り自殺の失敗によって上から落ちてきたという逆転が鮮やかです。そして、クリスチャンであった江草雅之のためのキリストの死になぞらえた装飾が、一連の事件の中で“焼き鳥の見立て”に見えてしまうという二重の見立てもよくできています。ただし、“酢がやになったんじゃ”という舞門の言葉にはかなり無理があると思います。単なる置き換えだけでなく、文字の並べ替えというもう一段階のプロセスが必要になるのですから、とっさにこういう言葉が出てくるのは不自然でしょう。

2003.04.04読了

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