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人獣細工/小林泰三

1997年発表 (角川書店)
「人獣細工」
 人体改変をテーマとしたSFは多数ありますし、そこにアイデンティティの問題を絡めた作品もあるはずです(が、思い出せません)。しかし、この作品の場合、出発点がまったくであるところが特徴的です。人体を少しずつ改変していくのではなく、ブタの体を人体へと改変していくという逆方向の処理が行われることで、人間と人間以外の存在との境界線が一層あいまいなものになると同時に、物語が一種異様な雰囲気を帯びています。

「吸血狩り」
 この作品は、素直に読むと、幼い少年と吸血鬼との対決を描いた冒険譚とも受け取れるのですが、(おそらく)多くの方がお気づきの通り、相手は吸血鬼ではなく普通の人間であるようにも読めます。ただし、作者自身が“二通りに解釈できるように”書いたと述べている*ように、吸血鬼と思わせて普通の人間だったという“オチ”ではないことに注意すべきでしょう。つまり、この作品はあくまでもリドル・ストーリーであって、黒ずくめの大男が吸血鬼だという証拠がないのと同様に、普通の人間だという証拠もないのです。
 そして、この作品の最後の一行には、初めて吸血鬼を殺したのも八歳の夏だった”と書かれています。ここから読み取れるのは、1)語り手は依然として黒ずくめの大男を“吸血鬼”と認識している、2)語り手はその後も“吸血鬼”を殺している、という2点です。殺した相手が本当に吸血鬼だった場合には何ということもないのですが、普通の人間だった場合には……。
 果たして語り手は、幼い頃の武勇伝を語る“吸血鬼ハンター”なのか、それとも妄想に取り憑かれた(大量)殺人者なのか。読者としては、二つの解釈の間にいつまでも取り残されるより他ありません。

「本」
 特になし。

*: 「小林泰三ファンページ」(現在は閉鎖?)内の「FAQ」より。

2004.02.04再読了

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