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冬のオペラ/北村 薫

1993年発表 角川文庫 き24-5(角川書店)
「三角の水」
 状況からみて、佐伯志摩子が犯人でなければ柏木しかあり得ませんし、ナトリウムやカリウムなど水と反応して発火する物質を知っていれば、トリックは見え見えでしょう。特に、実験に使っていたというのであれば、気づかない方がおかしいと思います。
 しかし、発火装置の配置(志摩子からは死角で柏木からのみ見える位置)や三角バケツの使用などの細かい工夫により、発火現象が効果的に演出されているところはよくできています。

「蘭と韋駄天」
 特徴のある建物を目印にして場所を誤認させるという、ユニークなアリバイトリックが秀逸です。実は、私はこの作品の舞台に土地勘があるというか、問題の場所も実際に通ったことがあるのですが、まったく気づいていませんでした。なお、現地の様子については「北村薫『冬のオペラ』ファン限定企画「マジカルミステリー蘭と韋駄天ツアー」」「Radio Rimland online」内)に写真付きの詳しいレポートがありますので、ぜひそちらをご覧下さい。
 ちなみに、作中で言及されている“ニコライ堂の前の紅茶の専門店”(「サーモピレー」)は、残念ながら随分前に閉店してしまいました。

「冬のオペラ」
 “もう一つの犯罪”の存在による構図の逆転と、被害者の衣服が脱がされていた理由、そしてこの上なく鮮やかなダイイングメッセージが見事です。
 事件の背景は、「三角の水」で描かれたものに通じるところがありますが、もちろん意図的なものでしょう。すべてがこの結末に向けて組み立てられた構成は、あまりに巧妙すぎてあざとささえ感じられますが、やはり心を打たれずにはいられません。

2006.03.03再読了

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