この作品では二つの科学トリックが使われていますが、特殊な知識に基づくものとはいえ、どちらも〈バブル〉という舞台を生かした見事なものだと思います。
液体窒素の方は、解明の直前にある“デュワー瓶”に関する説明がやや露骨すぎるようにも思えますが、逆にこれがあるがために真相が納得しやすいものになっているのは間違いないでしょう。
一方のモーゼ効果(こちらのページをご覧下さい)については、本文中には“きっとご存じだと思いますが、水には反磁性と呼ばれる性質があります” (345頁)と書かれてはいるものの、一般的な知識とは思えません。しかし、こちらは現象の鮮やかさに救われているように思います。
殺人の動機自体はありがちともいえるかもしれませんが、登場人物たちの行動の理由についてはかなり工夫されていると思います。
まず須賀道彦殺しについては、被害者が〈バブル〉の常駐スタッフだったために〈バブル〉内で殺さざるを得なかったわけですし、現場を密室にした理由は自殺に見せかけるためです。
次の、和久井による佐倉殺しについては、犯人の方が常駐スタッフだったという逆のパターンで、しかも佐倉を狙った理由は、自分が佐倉に狙われていると思い込んでいたというひねられたものです。しかも、回りくどい手口を使った理由についてもうまく説明されています。
そして和久井殺しについては、犯人が部外者だったためにそのタイミングでなければならなかったのですし、死体の発見を遅らせて犯行時刻から目をそらすために現場を密室にしたという理由は秀逸です。
さらに、麻奈美が佐倉を排除しようとした理由も一風変わったものですが、真相の一部を見抜いた寺崎緋紗子が口を閉ざしていた理由が何ともいえません。
登場人物それぞれの思惑が複雑に絡み合って、誰一人予期せぬ形に成長してしまったという真相は、強く印象に残ります。
2002.03.06読了
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