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顔のない男/北森 鴻

2000年発表 (文藝春秋)

 最初の「真実情報」では、空木精作が“探偵”だったことが暗示されますが、それが「赤色凶器」に至って鮮やかに反転しています。原口と又吉が入手した手がかりが、事件の調査記録ではなく犯罪の計画書だったという真相は、実に見事です。

 そして、空木精作の標的が栄光商事であることが示されますが、その意図がはっきりしないまま、今度は栄光商事の持田壮一へと焦点が移っていきます。このように、謎が少しずつシフトしていくところはよくできているのですが、終盤に持田壮一に焦点が当たりすぎているため、“殺された空木精作”=持田壮一(本物)であることがわかりやすくなっているきらいはあります。もちろん、“空木精作”が物語の主役である以上、この点は仕方ないともいえるでしょう。

 しかし、原口への疑惑が露骨すぎるために、かえって師岡課長が黒幕であることが見えやすくなっているところはいただけません。他がほぼ非の打ち所がないだけに、非常にもったいなく感じられます。

2003.10.21読了

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