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妖異金瓶梅/山田風太郎

2001年刊 扶桑社文庫S10-1 昭和ミステリ秘宝(扶桑社)

 この作品のミステリとしての最大の特殊性は、探偵役と犯人との関係にあります。探偵役が犯人を見逃すどころか、積極的に協力(「麝香姫」参照)さえしてしまうという関係は、前代未聞といえるのではないでしょうか。また、必然的に、探偵役である応伯爵がその推理を披露する相手が、(ボーナストラックの「人魚燈籠」を除いて)真犯人である潘金蓮ただ一人となっているのも特徴的です。
 結果的にこの作品は、応伯爵による謎解きを中心とした本格ミステリであると同時に、犯人である潘金蓮を主役とした犯罪小説としての側面も兼ね備えたものになっているのです。連作短編としては非常にユニークな図式といえるでしょう。

 「凍る歓喜仏」以降、西門慶の死を引き金として物語は長編化していきます。いわゆる〈連鎖式〉に近い形ですが、この作品では全編を貫くどんでん返しが用意されているわけではありません。しいていえば、潘金蓮の犯罪の陰で春梅が予想以上に大きな役割を果たしていた可能性が示唆されていることくらいでしょうか。あえてどんでん返しを用意するとすれば、すべてが春梅による“操り”だったことにしてしまうという手もあるとは思いますが、明らかにこの作品で描かれた形の方が美しいでしょう。


 個別の感想は、一部の作品のみ。

「赤い靴」
 何といっても、殺害と切断の動機が強烈です。(一見)これほどに“軽い”動機には衝撃を受けました。
 いかにも怪しげな脚フェチの門番が登場していますが、あまりにもあからさますぎるためにそのまま彼を犯人とは考えにくいものの、動機のレッドヘリングとして機能しているように思います。つまり、その存在によって“門番に罪をかぶせるために脚を切断した”というわかりやすい動機が浮かび上がってくるため、最後に明らかにされる真の動機が一層際立っているのではないでしょうか。

「西門家の謝肉祭」
 豪快なカニバリズムテーマの作品です。終盤の展開はロアルド・ダールの(以下伏せ字)「おとなしい凶器」(ここまで)を彷彿とさせます(こちらはカニバリズムとは関係ありませんが)。

「変化牡丹」
 腫れ上がった顔を利用した入れ代わりトリックは面白いと思いますが、いくら何でも自らの顔を蜂に刺させるという危険までは冒さないでしょう。印象的ではあるものの、やや無理のある作品です。

「麝香姫」
 この作品では完全に、潘金蓮がどうやって李桂姐を蹴落とすか、というのが興味の中心になっています。それにしても、その手段はあまりにも強力です。

「漆絵の美女」
 漆という伏線が、何とも無惨な形で生かされています。後味がかなり悪くなっているのが残念。

「妖瞳記」
 鏡を使ったトリックは見え見えで、ミステリとしてはさほどではありませんが、劉麗華の心の動きが強く印象に残る作品です。

「女人大魔王」
 二段階の死体入れ換えトリックは、お見事としかいいようがありません。

「死せる潘金蓮」
 春梅の奇行の動機、そしてその背後にある金蓮への思いには圧倒されます。一方、それに対抗することになる応伯爵の心の動きにも興味深いものがあります。ラストで曠野を駆け続ける応伯爵の姿も、哀しくも美しい余韻を残しています。

2003.01.06読了

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