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目を擦る女/小林泰三

2003年発表 ハヤカワ文庫JA736(早川書房)

 一部の作品のみ。

「目を擦る女」
 “窓の外に広がる黄色い空には茶色の毒の雲がたなびいている”という最後の一文をみると、八美の語っていたことが真実であるようにも思えますが、八美の狂気が操子に伝染した結果の妄想とも考えられます。あるいは、最初からすべてが操子の夢だったのかもしれません。リドルストーリーのような結末です。

「超限探偵Σ」
 例えば、G.イーガン(以下伏せ字)『宇宙消失』(ここまで)や、山田正紀の短編(以下伏せ字)「時間牢に繋がれて」(『神獣聖戦II 時間牢に繋がれて』収録)(ここまで)などは、この作品と似たような形のアンチミステリといえるのではないでしょうか。

「空からの風が止む時」
 この作品の舞台は光帆推進宇宙船(例えばR.L.フォワード『ロシュワールド』参照)であり、オトたちが住んでいたのはその光帆(ライトセール)の(進行方向)前方側です。前方へ加速されている間は重力が存在しますが、減速のために逆向きの加速度が加わるにつれて重力は衰退していき、減速段階に移ると同時に重力が逆転します。しかしその間も宇宙船は前方へ進んでいるため、星間物質の“風”は止みません。目的地に到着するとおそらく周回軌道に乗るでしょうから、最終的には重力(=加速度)は消滅することになりますが……。
 それにしても、そんな場所で生命が誕生するという奇想天外なアイデアには驚かされました。

2004.11.23読了

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