琅邪の虎/丸山天寿
“人間の足が生えた虎”の謎については、発見直後の“犯人は弓矢を使って李仲を射殺し、その着物を剥ぎ取り虎皮を被せたというのか。”
(119頁)という記述などもあって、一見すると典型的な“見立て殺人”のようにも思われますが、被害者である李仲が自発的に虎皮をかぶっていたという真相がまず意外。もっとも、実際には虎皮の方にも矢による孔や血痕が残っていると考えられるので、李仲が虎皮をかぶった状態で射殺されたことに誰も思い至らないのはいささか不自然といわざるを得ないところがあります。
しかし、李仲が虎皮をかぶっていた理由が非常に秀逸。現代人としてはなかなか想定しがたい“盲点”であるとともに、この時代や文化的背景を考えれば十分な説得力があるもので、実によくできていると思います。そしてもちろん、自身が人虎となって清と添い遂げようとするほどに思いつめた、李仲の恋心が何ともいえない印象を残します。
事件のその他の部分については、風水博士の一行があからさまに怪しいこともあり、色々と見えやすくなっているきらいもありますが、“人虎騒動”の発端を作った李耳(孫通)と清でさえも把握できない事態にまで発展した構図は面白いところです。
観光台の崩壊については二重の“解決”が用意されていますが、前作のラストで明かされた無心の正体を考えれば、真相そのものは想定の範囲内といえるでしょう。しかしその“探偵=犯人”という真相が、無心がいち早く琅邪の町に現れて積極的に事件を解決しようとする動機となっているのがうまいところですし、関連して明かされる琅邪の町の正体が印象的です。
最後の“女か、虎か?”
(302頁)はいうまでもなく、リドルストーリーの名作であるフランク・R・ストックトン「女か虎か」(早川書房編集部・編『天外消失』収録)にちなんだものですが、“人虎”という設定なども相まって実に自然な形で問いが発せられているのが見事です。