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シャーロック・ホームズ対切り裂きジャック/M.ディブディン

The Last Sherlock Holmes Story/M.Dibdin

1976年発表 日暮雅通訳 河出文庫 テ3-1(河出書房新社)

 “ホームズ研究者や批評家の間に強烈な反応を引き起こした問題作。「読者に対してこんな結果が許されるのだろうか?」”(裏表紙より)という紹介文などから、シャーロック・ホームズ=切り裂きジャックという真相が予想できてしまうのが残念です(それでも、第3章のラスト(197〜198頁)で描かれている、鼻歌を歌いながら死体をさばくホームズの姿はやはりショッキングですが)。そしてまた、ホームズがさんざん切り裂きジャックの正体をモリアーティ教授だと主張していることから、シャーロック・ホームズ=モリアーティ教授という仕掛けも見当がついてしまいます。

 しかし、真相が明らかになってからの展開は非常に面白いと思います。真相を知ったとはいえ心情的に告発もできないワトスンの苦悩と、切り裂きジャック事件が一段落した時の安堵は切実に伝わってきますし、その後ワトスンの方がコカイン中毒になってしまうところなどは意表を突いています。そして、ライヘンバッハの滝での最後の対決において、いきなりホームズがワトスンを告発するというどんでん返しは、真相がわかっていてもなお強烈です。

 物語は、作中ではワトスンが筋書きを書いたとされる“聖典”「最後の事件」からの引用で幕を閉じますが、“当代随一の法の擁護者と最も危険な犯罪者の二人は、水が泡立ち渦を巻く、その恐ろしい滝壺の水底深くに永久に横たわることとなった”というこの一文に、ワトスンの体験した“事実”がしっかりと反映されているところが見事です。

2005.08.15読了

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