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明治断頭台/山田風太郎

1979年発表 ちくま文庫 や22-7(筑摩書房)

「怪談築地ホテル館」
 トリックに使われた刀と下駄、そして螺旋階段という小道具の組み合わせは、この時代の日本ならではのもので、非常によくできていると思います。

「アメリカより愛をこめて」
 人力俥を何とかして自走させたのだろうとは想像がつきますが、2台組み合わせて安定させたところが秀逸です。

「永代橋の首吊り人」
 これでアリバイが成立してしまうところが、やはりこの時代ならではでしょう。

「遠眼鏡足切絵図」
 ばらばらの事実が見事につながっていきます。犯人の計画にはやや無理があるようにも思えますが、うまく計算された作品です。

「おのれの首を抱く屍体」
 この事件では、ついにすべてを解決しきれなくなっているところが印象的です。しかし、エスメラルダの口寄せによる解決という形をとっているため、川路もそれ以上の説明を求めることができないというのがポイントです。大きな謎を残しながらも、ぎりぎりのところで事件が決着しているのですから。

「正義の政府はあり得るか」
 最終話では、ついにすべての真相が明らかになりますが、香月の行動の是非はともかく、その動機には圧倒されます。理想主義者である香月にとって、その理想を追求するのにうってつけの機関であったはずの弾正台でさえ、不正に対して十分な力を発揮できないというのは許しがたいことだったに違いありません。第一話で愚痴をこぼしていた(これが伏線になるとは意外でした)邏卒たちにとっても、香月の決断は渡りに船だったことでしょう。そして、彼らがそれぞれに迎える凄絶な最期は、物語のフィナーレとして十分な迫力を備えています。

 ミステリとして注目すべきなのは、邏卒たちの扱いでしょう。彼らがそれぞれの事件に関与していることは早い段階から明らかなのですが、第一話でその悪行が描かれていることで、口裏合わせやサボタージュといった行動が自然なものに見えてしまい、その裏にある真相がうまく隠されています。見事なミスディレクションといえるのではないでしょうか。

 ただ、最終的な真相が香月自身の口から語られてしまうというのが残念です。基本的にそれぞれの事件の解決に納得している以上、新たな手がかりでも出てこない限り、川路らが真相に到達することはあり得ないわけで、仕方ないところかもしれませんが。〈連鎖式〉を採用した後続の作品(例えば、山田正紀『人喰いの時代』や霞流一『首断ち六地蔵』など)では、外部視点の導入などによってうまく解決されていますが、そのあたりは先駆的な作品ならではの限界といえるのかもしれません。

2002.12.16読了

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