ミステリ&SF感想vol.50 |
2002.12.24 |
『家蝿とカナリア』 『明治断頭台』 『祈りの海』 『お楽しみの埋葬』 『ニムロデ狩り』 |
家蝿とカナリア Cue for Murder ヘレン・マクロイ | |
1942年発表 (深町眞理子訳 創元推理文庫168-04) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] まず、物語としては非常に面白い作品です。劇場の舞台上で、観客の目の前で堂々と犯行がなされるという大胆さもさることながら、一見非常に限定されているにもかかわらず、犯行時刻も特定できないという逆説的な状況、そして“家蝿”と“カナリア”という奇妙な手がかりなど、いずれも十分に魅力的です。また、演劇という世界の(まさに)舞台裏が鮮やかに描かれている点や、終盤に明らかになる犯人の心理などは印象的です。
しかしながら、本格ミステリとしては不満が残ります。第1章の冒頭で“家蝿”と“カナリア”が手がかりであると挑戦的に宣言されていることからもわかるように、この作品はフェアなフーダニットを目指したものだと考えられますが、すべての真相とはいかないまでも、少なくとも犯人を指摘することは非常に容易です。また、解決へと至るプロセスも物足りないものに感じられます(このあたりはネタバレ感想にて)。 とはいえ、前記のようによくできた物語であることは確かです。本格ミステリではなく、フーダニットの要素を導入したサスペンスとして一流の作品といえるのではないでしょうか。 2002.12.13読了 [ヘレン・マクロイ] |
明治断頭台 山田風太郎明治小説全集7 山田風太郎 | |
1979年発表 (ちくま文庫 や22-7) | ネタバレ感想 |
[紹介]
[感想] いわゆる〈連鎖式〉――長編化する連作短編――という形式で書かれた、明治初期を舞台とするミステリです。第一話と第二話はプロローグ的な登場人物及び舞台の説明、第三話から第七話まではそれぞれ奇怪な事件とその解決が描かれており、さらに最終話では驚愕の真相が待ち受けています。
まずは、史実の隙間にこれほどの物語を作り上げた作者の手腕に驚嘆させられます。明治の初期、ごく短い間だけ存在した弾正台という役所に焦点が当てられ、実在の人物も次々と登場しています。その中で、扱われる事件はいずれも奇抜なものばかり。毎回繰り返される、何とも人を食ったような解決場面も印象的ですが、この時代ならではのものも含めて、それぞれに使われているトリックもユニークです。 そして、最後の真相が明らかになる最終話は怒涛の展開です。最終的な解明の過程にはやや不満もありますが、それぞれの事件がスケールの大きなテーマのもとに収斂するところは圧巻です。何ともいえない余韻の残るラストも含めて、間違いなく傑作といえるでしょう。 2002.12.16読了 [山田風太郎] |
祈りの海 Oceanic and Other Stories グレッグ・イーガン |
2000年発表 (山岸 真編・訳 ハヤカワ文庫SF1337) |
[紹介]
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お楽しみの埋葬 Buried for Pleasure エドマンド・クリスピン | |
1948年発表 (深井 淳訳 ハヤカワ文庫HM55-2・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 探偵役のフェン教授が選挙に出馬してしまうというのもさることながら、事件よりもその選挙戦の方に筆が割かれているという異色の作品です。この選挙絡みのドタバタや、村の人々、さらには名脇役“ゴクツブシの豚”などがかもし出すユーモラスな雰囲気によって、とても楽しい物語に仕上がっています。
事件の方はといえば、特に毒殺事件などは扱いが軽く、また犯人も比較的推測しやすいのではないかと思います。ところが、第二の殺人で一つだけ大きな謎が残り、事態は不可解な状況を呈していきます。最後に解き明かされる真相は実に意外。伏線もしっかりしていて、非常によくできているといっていいでしょう。 しんみりとさせられるラストはやや意外ですが、ミステリとユーモアのまとまりもよく、個人的にはクリスピンの最高傑作(既読の中では)だと思えるだけに、入手困難なのが残念です。 なお、本書は茗荷丸さん(「瑞澤私設図書館」)よりお譲りいただきました。あらためて感謝いたします。 2002.12.20読了 [エドマンド・クリスピン] |
ニムロデ狩り The Nimrod Hunt チャールズ・シェフィールド |
1968年発表 (山高 昭訳 創元推理文庫SF693-1・入手困難) |
[紹介] [感想] メインの物語は上で紹介した通りですが、実際にはなかなか話が進みません。主役である、モーガン構造体開発の責任者エスロ・モンドリアンや、追跡チームの一員となる地球人チャン・ドルトンらをはじめ、登場人物たちがそれぞれの思惑で独自に動くエピソードに大部分が割かれています。その分、それぞれのキャラクターは深く掘り下げられ、物語に深みが加わっているところは魅力的です。
実際に追跡チームが編成され、“ニムロデ”と名づけられた獲物と遭遇してからの展開もかなり意外で、予想される戦闘とはかなりほど遠いものです。しかし、提示されるアイデアはユニークで、なかなかよくできた作品だと思います。 2002.12.23読了 [チャールズ・シェフィールド] |
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