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からくり富/泡坂妻夫

1996年発表 徳間文庫 あ19-2(徳間書店)
「もひとつ観音」
 貞次は一体どうやって真相に気づいたのでしょうか。六がかつて“歯力男”だったことを知っていた頓鈍であれば、喉を食いちぎられた死体が六の仕業だと見抜いても不思議はありません。しかし貞次が知り得たのは、お照が分石寅之助に会う手引きをしたのが六だったということ、そして頓鈍が六を怪しげな使いに出したことだけですから、六が犯人だということが想像できたとしても、その正体を“歯力男”と見破るのはやや強引に感じられます。“歯力男”から“喉を食いちぎられた死体”という流れ(頓鈍の場合)と、死体の方から“歯力男”への連想(貞次の場合)とでは、だいぶ差があると思うのですが。

「小判祭」
 蛇が姿を現したことが意外な手がかりとなっています。熊松が泥棒を見つけた時に騒がなかったという事実から、恵比須屋の主人が犯人だということを導き出す論理は、なかなかよくできています。

「新道の女」
 お美音(竹仙)が殺されてしまったことで、千之助(きぬ)としても生きることをあきらめざるを得なかったのでしょう。哀しい作品です。

「猿曳駒」
 一文銭を手に入れるための車道のたくらみはうまいと思います。また、惚れた妻から毒を飲まされて死んでいった寅松の心情は、何ともいえないものがあります。

「手相拝見」
 黒子の起請彫という発想は面白いと思います。

「天正かるた」
 純斎の家まで確認に行っているのですから、“おらんだ正月”だったことはすぐ明らかになってしまいそうに思えます。読者としては面白いネタでしたが。

「からくり富」
 トリック自体もよくできていますが、それが暴かれるきっかけが見事です。たまたま一番富がキリのいい番号だったため、その番号を忘れたという庄太に疑いがかかるのは自然な流れです。

2001.06.18再読了

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