ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > シリーズ感想リスト作家別索引 > 山田風太郎忍法帖短篇全集vol.1 > 忍法破倭兵状

忍法破倭兵状/山田風太郎

2004年刊 山田風太郎忍法帖短篇全集3 ちくま文庫 や22-18(筑摩書房)

 一部の作品のみ。

「忍法鞘飛脚」
 まさかあんなところから密書が出てくるとは……。題名の意味をよく考えれば明らかなのですが、一見すると受け渡しの機会がなさそうなところがよくできています(真相はもちろん、お濃の方の体内経由でしょう)。しかし、竹膳が仮性包茎でなかったら、密書を届けるのはかなり難しかったのではないでしょうか。

「忍法肉太鼓」
 同輩を手にかけてまで密命を果たした六波羅十蔵ですが、酒井雅楽頭の失脚を受けて、その成果――しかも自らの子――を水泡に帰させる羽目に追い込まれます。その空しさはいかばかりか。そして、結局は子を残すことができずに断絶という結末の大いなる皮肉が何ともいえません。

「忍法花盗人」
 精液を介して肥後守に取り憑くという信夫銀三郎の忍法、女陰を口と錯覚させる芦名兵蔵の忍法、そして“もの”を入れ替えるという阿武隈法馬(の妻・志乃)の忍法「『今昔物語集』の忍者」『かげろう忍法帖』収録)を読んでいれば、ニヤリとさせられるところです)。この、三者三様のアプローチが面白いと思います。
 しかし、三人の忍者たちの末路はいずれも悲惨。そして、そのような事態を招いた西郷頼母の無神経さが腹立たしく感じられます。

「忍法おだまき」
 周囲の状況は現在のままなのですから、単に過去をやり直すよりは遙かにマシですが、やはりその間の記憶や経験を失ってしまうのが痛いところです。生まれ変わる前の秀次の殊勝な台詞も、二年間の経験があればこそ。そう考えれば、秀吉が忍法おだまきを施されなかったのは結果的に正解だと思うのですが、やはり本人にとっては悔やまれるところでしょう。

「忍法破倭兵状」
 秀吉を暗殺するために来日した一行が、秀吉を生き長らえさせるために尽力するという逆説的な展開がよくできています。そして、秀吉の乱心をうまく使い、また家康をダシにした顛末が秀逸。

2004.06.13読了

黄金の羊毛亭 > シリーズ感想リスト作家別索引 > 山田風太郎忍法帖短篇全集vol.1 > 忍法破倭兵状