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鬼刑事vs殺人鬼/田中啓文

2014年発表 角川ホラー文庫 た1-7(角川書店)
「鵺の啼く夜」

 猿・蛇・(虎)猫で“鵺”なのか、はたまた蛇・ナメクジ・蛙で“三すくみ”なのか……という奇怪な状況ですが、唯一生きていたナメクジが例外とされるのはわかりやすいところですし、その用途――声をよくする民間療法*1にも聞き覚えがあるので納得。そして残りは、ヴードゥーの呪術の道具とうまく説明がつけられています。被害者と加害者の反転はありがちではありますが、この作品では被害者がベニーに助けを求めてきたことが迷彩になっていますし、呪術による殺人(未遂)が成立している(ように見える)のが面白いところです。

 “鵺”の真相については、“雉”と“棄児”をつなげるのは少々苦しいようにも思われます*2が、アルバムの曲名に仕込まれた折句(?)は(英題の曲が使われているところも含めて)よくできています。そして、死を前にした最後の願いが、血のつながらない姉に妨害されたという真相が、何ともいいようのない悲哀を残します。

「黒塚の迷宮」

 プロデューサー殴打事件の真相は、藤巻署長の“失言”が原因になっていることも含めて、傍からみるとやはり脱力せざるを得ません。また、お笑い芸人たちの無茶苦茶な目撃証言にはさすがに苦笑*3。そして殴打事件の犯人を目撃した芸人の一人が、失踪事件の解決にも関わるという微妙なつながり具合が、その微妙さゆえにかえって印象に残るところがあります。

 失踪事件については、序盤に“食品偽装事件”と子供の死が明らかにされているので事件の構図はわかりやすいと思いますが、“鬼こもれり”や“おしっこ漏れる”、さらに“クロヅカ”といったダジャレは、作者らしいというか何というか。廃棄された食品倉庫の様子が“黒塚”を思わせるのはうまいところですが。

「鬼刑事vs殺人鬼」

 第1巻「プロローグ」からの伏線を踏まえれば、事件の背景に寛永寺の移転があることは(読者には)明らかですが、それを警視総監も含めた被害者のミッシング・リンクに仕立ててあるところがよくできています。そして、“鬼”と見せかけて(鬼と混同される)“艮の金神”が真犯人という真相が秀逸。加えて、鬼丸の存在がベニーの六壬式占に影響を与えたというのもうまいところです。

 “艮の金神”に取り憑かれたのがSITの西田義照だったという真相で、鬼丸が西田に邪念を感じなかった(123頁~124頁)ことにも納得。また、「黒塚の迷宮」のラストで西田が風貌に似合わぬ(?)活躍を見せたのも、犯行と逃走が可能であることを示唆する伏線ということかもしれません。さらに、その「黒塚の迷宮」での失踪事件がきっかけで忌戸部署の警察官・峯野かをり*4と接点ができ、一連の殺人事件に影響を与えたというつながりもよくできています。

*1: いうまでもないかと思いますが、科学的根拠はまったくありませんし、何より危険な寄生虫がいる可能性が大なので、真似してはいけません。
*2: 作中にもあるように、“鵺”といえば“トラツグミと考えるのが定説”(87頁)でもありますし、“棄児”から“鵺”に思い至るのは難しいのではないかと。
*3: プロレスラーのアブドラ・ザ・ブッチャーが犯人というネタはうまいと思いましたが(笑)。
*4: 「女神が殺した」『オニマル 異界犯罪捜査班 鬼と呼ばれた男』)の内山さくらと同じく、容赦ないという印象ですが、逆に小麦早希刑事がここまで重要な役どころをつとめることになるとは、思いもよりませんでした。

2014.06.24読了