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金庫と老婆/P.クェンティン

The Ordeal of Mrs. Snow/P.Quentin

1951年発表 稲葉由紀・他訳 ハヤカワ・ミステリ774(早川書房)

 複数の作品に共通するモチーフとして、“旅先での出会い”「ルーシイの初恋」・「母親っ子」)、“妻殺しに失敗する夫”「汝は見たもう神なり」・「不運な男」)、“我が子を溺愛する親”「親殺しの肖像」・「母親っ子」・「姿を消した少年」)、“恐るべき子供たち”「親殺しの肖像」・「少年の意志」・「姿を消した少年」)、“金庫室に閉じ込められる”「親殺しの肖像」・「金庫と老婆」)などがあります。

 個別の感想は一部の作品のみ。

「ルーシイの初恋」
 はこの指環をきっと喜ぶに違いなかった”というラストの1行が、救いのなさを一層強調しています。せめて“恋人”のためであってくれ、と思ったのは私だけでしょうか。

「ミセス・アプルビーの熊」
 自らの悪意には目をつぶり、何事もなかったかのように仔熊の話を続けるミセス・アプルビーの姿が印象的です。

「親殺しの肖像」
 スレイター卿の死にざまは英雄的ではありますが、最後までマーティンを理解していなかったという事実が哀しみを催します。

「少年の意志」
 ラストは見え見えですが、だからこそ佳作といっていいでしょう。

「姿を消した少年」
 ブランソンにとっては、母親に自由に甘えることができるということが何よりも重要であり、彼女に大怪我をさせて不自由な体にしてしまったことなどはまったく問題ではないようです。恐ろしいほどに自己中心的なその思考は、あまりにも衝撃的です。
 並の作家であれば母親をそのまま死なせて、予期せぬしっぺ返しを受けたブランソンの悲嘆を描くのがせいぜいであるかもしれません。しかしクェンティンは、あえてハッピーエンドもどきに仕立てることでブランソンの怪物性を浮き彫りにすることに成功しています。
2001.09.02読了

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