オルガニスト/山之口 洋
1998年発表 (新潮社)
テオの側から描かれた前半がミステリ風であるのに対し、それをヨーゼフ(=“ハンス・ライニヒ”)の側から描いた後半が一転してSF風になっているという構成が面白いところです。
まさか自分で手を下したとは思いませんでしたが(プログラミングはできたとしても、誰にも気づかれずに現場まで行くのは不可能では?)、誰がラインベルガー教授を殺したのかは、早い段階で見え見えになっています。特に、ラインベルガー教授の演奏だけを標的としたその手口が、天才オルガニスト“ハンス・ライニヒ”が犯人であることを歴然と示しています。
しかし、その動機は非常に秀逸です。もちろん、殺人の動機そのものは対立するラインベルガー教授を排除するためではあるのですが、バッハのレジストレーションを利用した殺人の手口が、オルガニストとしてラインベルガー教授と(ひいてはバッハその人と)同じ高みにあることの証明であり、オルガニストとして生きるための挑戦である、というところが印象的です。ホワイダニットのミステリとしてもなかなかよくできた作品といっていいのではないでしょうか。
“音楽になりたい”
と口にしていたヨーゼフにとって、最後に待っていた想像を絶する運命は多少なりとも満足のいくものだったのでしょうか。“音楽になる”ことと“オルガンになる”ことは微妙に違うように思えるのですが……。