[紹介]
三日連続で行われる城翠大学の学園祭、その一日目の開始直後。突然、講義棟の一つが突然正体不明の深い闇に包まれ、天乃原周と三嘉村凛々子は推理小説研究会の面々とともに、その中に閉じ込められてしまった。一同は必死で外部への出口を探し求めるが、闇は壁となって脱出を阻む。さらに、
展示物の一つ、厳重に封印されていたはずの幻の魔器〈ロセッティの写本〉がなぜか発動し、恐るべき“もの”が召喚されてしまったらしい。憑依されたのは一体誰なのか? 疑心暗鬼の中、閉じ込められたメンバーたちが一人、また一人と姿を消し始めて……。
[感想]
『トリックスターズ』・『トリックスターズL』に続くシリーズ第三弾で、「まえがき」にも書かれているように、先の二作を読んでからの方が間違いなく楽しめると思いますので、ぜひとも最初の『トリックスターズ』から刊行順にお読みください。
シリーズ第一作『トリックスターズ』では魔学部の日常が(ある程度)描かれ、第二作『トリックスターズL』では学外に舞台が移されていましたが、本書と『トリックスターズM』・『トリックスターズC PART1/PART2』の三作は学園祭の物語となっています。序盤から、学園祭を精一杯楽しもうと盛り上がる佐杏先生のテンションの高さに苦笑を禁じ得ませんが、にぎやかな祭の雰囲気も束の間、いよいよ学園祭が開始されたその直後に異変が発生し、物語に文字通りの“暗転”(*1)が訪れます。
講義棟を包み込んで脱出を阻止する“闇”というあからさまな怪現象など、発端からこれまでになく魔術が前面に出されているのが目を引きますが、その一方で、内部に閉じ込められる人物の大半は推理小説研究会の会員たちであり、名探偵を気取る(失礼)会員がクローズドサークル内で“犯人”探しに挑もうとするあたりは、綾辻行人『十角館の殺人』などにも通じるところがあります(*2)。このように、魔術とミステリとが全力でぶつかり合ったような、堂々たる“魔術+ミステリ”の状況設定がまず大きな魅力です。
閉鎖空間から脱出できないだけではなく、その中で幻の魔器〈ロセッティの写本〉の召喚魔術が発動しているのが重要なところ。この召喚魔術に関する説明がなかなか面白いのですが、要するに、魔術で召喚された“もの”は誰かに憑依することで機能するという設定になっています。やがて、その機能から危惧されていたた通りに、閉じ込められた人物たちが一人ずつ不可解な消失を遂げるに至って、残された人々の中にいるはずの“憑依された人物”は誰なのか、という一種の“犯人”探しが展開されるのが大きな見どころです。
もう一つ面白いのが、佐杏ゼミのメンバーにして推理小説研究会所属の扇谷いみなによる、天乃原周や三嘉村凛々子が実名で登場する作中作〈トリックスターズ〉の存在によるメタフィクション的な趣向です。『トリックスターズ』と『トリックスターズL』はすでに発表されて会員たちに批評され(*3)、さらに会誌の最新号には学園祭を舞台にした新作『トリックスターズD』の序盤が掲載されている状態ですが、実名小説とはいえ作中の“現実”そのままではないことが示されており、外部の“現実”から切り離された閉鎖空間の中にあって、作中作と作中の“現実”とが錯綜して(*4)さらに現実感が危うくなっていくのが印象的です。
“そして誰もいなくなった状態”に近づいていくスリリングな展開の中、クライマックスでついに明らかにされる驚愕の真相は、これ以上ないほど強烈。手がかりは十分に用意されていると思いますが、強力なミスディレクションが実に効果的ですし、トリックの扱い方/謎の作り方が秀逸です。やや都合がよすぎるように思われる部分もないではないですが、舞台設定を巧みに生かしたシリーズ中随一の仕掛けを味わうことができる、トリッキーな傑作であることは間違いないでしょう。
*1: それまでの 「in the "D"aylight」から、 「in the "D"ark」に転じる章題もしゃれています。
*2: このあたりについての言及ではありませんが、メディアワークス文庫版の 「あとがき」での、 “三作目というタイミングで“作中作”をモチーフとして取り入れたのは、綾辻行人氏の〈館シリーズ〉に倣ってのことでした。” (→綾辻行人『迷路館の殺人』を参照)という記述にニヤリとさせられました。
*3: 意外に厳しい評価もあったりしますが、 『トリックスターズ』派と 『トリックスターズL』派に分かれているところなど、なかなか面白いものになっています。
*4: 残念ながらメディアワークス文庫版には掲載されていませんが、電撃文庫版228頁〜229頁の甘塩コメコ氏によるイラストではこのあたりが意外な形で鮮やかに表現されており、一見の価値があると思います。
2006.05.02 電撃文庫版読了
2016.02.26 メディアワークス文庫版読了 (2016.03.07改稿) [久住四季] |