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プリズム/貫井徳郎 | ||||||||||||||||||||||||||||
1999年発表 (実業之日本社) | ||||||||||||||||||||||||||||
作者による「あとがき」には
仮説3.における、窓からの侵入が事件とは直接関係がなかったという推理や、仮説6.の睡眠薬注入手段(後に井筒自身が否定しているように、かなり無理がありますが)、仮説7.の別人によるなりすまし、仮説10.における事件の構図などは特に面白いと思います。 しかしながら、作中で提示されている仮説は、それなりの説得力を持ってはいるものの、いずれも決め手を欠いています。結局、本書には真相/結末は存在しないのです。「あとがき」を読むと、作者による恣意的な“真相”を排除することで、一つの結末に収束することなく多数の仮説が並列に存在した状態を作り出すことが、本書における最大の狙いだったと考えられます。 | ||||||||||||||||||||||||||||
実際には、上記1.〜10.の仮説のうち一部(例えば7.など)は明確に否定されています。また、四人の語り手がそれぞれに出した結論(3.6.8.10.)も、一人称の叙述を信用すればすべて間違いだということになります。しかし、それぞれの語り手にとってはその結論が“真相”であるということで決着しており、結論が間違っているということを知り得るのは、語り手たちの視点を重ね合わせることができる読者のみです。つまり、“プリズムを通して得られるスペクトル”の全体を見ているのは読者だけであって、語り手たちはその一部だけを見ているにすぎないのです。 本書の趣向の一つである犯人役と探偵役の循環が成立しているのも、またそれぞれのエピソードで異なる被害者像が描き出されているのも、語り手たちが全体を見通すことができないからに他なりません。語り手たちは“スペクトル”の一部分だけを見るかのように、被害者の一面だけをとらえ、また一部の手がかりのみに着目し、それぞれ異なる結論を導き出しているのです。 なお、その被害者像の違いを生み出している一つの要因は、被害者と語り手の関係です。教え子・同僚・元恋人・不倫相手という立場の違いによって、それぞれ被害者の違った一面を見るようになることに説得力が出ていると思います。 2003.05.01読了 | ||||||||||||||||||||||||||||
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