ミステリ&SF感想vol.38 |
2002.04.26 |
『Xに対する逮捕状』 『光世紀パトロール』 『バルーン・タウンの手品師』 『ハムレット復讐せよ』 『密室・殺人』 |
Xに対する逮捕状 Warrant for X フィリップ・マクドナルド |
1938年発表 (好野理恵訳 国書刊行会 世界探偵小説全集3) |
[紹介] [感想] “誰が、何をしようとしているのか?”という謎からスタートする、ユニークなミステリです。ふと耳にした奇妙な会話をもとに推理を重ね、犯罪計画を暴くという構造は、H.ケメルマンの名作「九マイルは遠すぎる」にも通じるものです。しかし、「九マイルは遠すぎる」では発端と結論のギャップ、そしてそれをつなぐ論理の積み重ねが特徴的であるのに対し、この作品の発端は明らかに犯罪計画を示唆しており、謎の解明過程のサスペンスに重点が置かれています。わずかな手がかりからスタートした捜査の糸が次々と切れていくことによる捜査陣の焦燥、そして新たな糸口が発見されることによる光明、この繰り返しが絶妙で、非常にスリリングな展開となっています。
終盤、犯罪計画が明らかとなった後も、事件を未然に防ぐために奔走する登場人物たちの動きによって、まったくだれることなく緊張感が維持されています。本格ミステリ的な謎解きという要素は少な目ですが、よくできた作品といえるでしょう。 2002.04.05読了 [フィリップ・マクドナルド] |
光世紀パトロール 石原藤夫 |
1981年発表 (徳間文庫216-5・入手困難) |
[紹介] [感想] 石原藤夫による、ハードSF風味を加えたスペースオペラです。全体的にドタバタした、ややチープな雰囲気が漂っているのはパロディを意識したものなのかもしれませんが、作者らしいハードなアイデアは随所に盛り込まれています。また、再生クローンという設定自体も面白いと思いますが、ケプラーが自閉症だったり、シューベルトが音痴だったりと、オリジナルの偉人たちとはかなり違ったイメージのキャラクターになっているところが印象的です。
2002.04.08再読了 [石原藤夫] |
バルーン・タウンの手品師 松尾由美 | |
2000年発表 (文藝春秋) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
| |
【関連】 『バルーン・タウンの殺人』 『バルーン・タウンの手毬唄』 |
ハムレット復讐せよ Hamlet, Revenge! マイクル・イネス | |
1937年発表 (滝口達也訳 国書刊行会 世界探偵小説全集16) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 芝居の最中というユニークな状況での殺人を描いた作品です。まず、芝居を行うこともあって登場人物がかなり多い上、英国人ほどにはなじみのないシェイクスピアの戯曲が重要な要素となっていることで、序盤はかなりとっつきにくく感じられます。しかし、主要な登場人物はそれぞれに個性的に描かれていて(個人的には恍惚の老画家マックス・コウプ氏が印象的です)、「ハムレット」の上演が目前に迫る頃にはだいぶ読みやすくなってくるように思います。
事件自体はともかく、その後の捜査は非常に地味に感じられますが、その中にあって機密書類をめぐるスパイ疑惑や、特殊な録音機・小型カメラといった小道具が異彩を放っています。特にスパイ疑惑の扱いはなかなか見事で、感心させられます。 終盤が一転してバタバタした展開になっているのがやや気になりますが、全体的にみれば巧妙なプロットの作品です。 2002.04.21読了 [マイクル・イネス] |
密室・殺人 小林泰三 | |
1998年発表 (角川書店) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 作者の第一長編にして、異色の本格ミステリです。まず事件自体が、いわゆる密室殺人とは少し違って、密室と殺人(?)が別々の状態となった“密室・殺人”であるところがひねくれています。微妙に加わってくるホラー的な要素は作者ならではといえるかもしれませんが、これはあくまでもおまけのようなもので、スプラッタ描写が控えめなところもやや意外に感じられます。
物語は探偵の四里川と助手の四ッ谷のどこかとぼけた掛け合いを中心に進んでいきます。何だかんだと理由をつけて助手を徹底的にこき使う四里川と、抵抗しようとしながらも最後には言いくるめられてしまう四ッ谷というコンビに、それぞれに一癖ありそうな関係者たちが絡んでいく構図は、ユーモアミステリともいえる雰囲気が漂っています。 事件の解決自体はまずまずともいえますが、地味なものに感じられるのは否めません。正直なところ、やや期待外れかとも思ってしまうところで唐突に、驚愕の真相が暗示され、全編が巧妙な計算のもとに書かれていることに気づかされます。好みは分かれるかもしれませんが、作者の周到な企みは評価すべきでしょう。個人的には非常に気に入っています。 2002.04.23再読了 [小林泰三] |
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト/作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.38 |