[紹介と感想]
小さな町・サリーに住むピーター・モーラン。彼は、主人のマクレイ氏の屋敷で運転手をつとめるかたわら、通信教育の探偵講座を受講していた。講師である“主任警部”の注意も聞かず、学んだばかりの探偵術を早速役立てようと試みるモーランだが、彼の熱意は空回りを繰り返し、大騒動へと発展していく……。
素人探偵の繰り広げるドタバタを描いた、ユーモア・ミステリの連作集です。主人公・モーランの勘違いや早とちりが原因で引き起こされる騒動と結果オーライの結末は、あまりにもユーモラスです。また、全編が往復書簡形式で書かれているところもよくできていて、完全にモーランの主観による事件の描写と受け手である“主任警部”の認識のずれや、タイムラグによるやり取りのすれ違いが笑いを誘います。
(2017.05.05追記)
なお、本書には未収録のエピソード「P・モーランの観察術」が、『ミステリ・ウィークエンド』に収録されています。
- 「P・モーランの尾行術」 P.MORAN, Shadow
- 尾行術を学んだモーランは、“主任警部”の例え話を真に受けて、イタリア人を尾行することにした。町でようやく見つけた“イタリア人”の後をつけたモーランだったが、尾行はあっさりばれてしまう。モーランはとっさに犯罪捜査官のふりをしてごまかすが、その“イタリア人”は……。
- モーランの手紙を受け取った“主任警部”はあっさりと“イタリア人”の正体を見抜くのですが、それがモーランにはうまく伝わらりません。しかしそれでも、まったく気づかないままに事件を解決してしまうモーランの“活躍”が印象的です。
- 「P・モーランの推理法」 P.MORAN, Deductor
- 人間観察から職業を推理する方法を学んだモーランは、町で出会った見ず知らずの男を、“バイオリンを弾き、針仕事もこなす畜殺業者”と見抜いた。やがて、ダンス・パーティに演奏家が不在というトラブルが起こった時、モーランはその“バイオリン弾き”のことを思い出した……。
- モーランの豪快な“推理”が笑えます。事件を大きくしておいて、よくわからないままに解決してしまう“マッチポンプ”ぶりも痛快です。
- 「P・モーランと放火犯」 P.MORAN, Fire-fighter
- 保険会社に勤める女性から、保険金目当ての放火を防ぐために空き家を見張ってほしいという依頼を受けたモーランは、早速“主任警部”に「放火」に関するテキストを送るよう頼んだ。だが、“主任警部”の心配通り、事態はおかしな方向へと進んでいく……。
- 有名な古典作品のパターンですが、ラストが何ともいえません。
- 「P・モーランのホテル探偵」 P.MORAN, House Dick
- 大富豪のハドスン夫妻が宿泊する間、ホテル〈サリー・イン〉のホテル探偵として雇われたモーラン。ところが、“主任警部”の再三の忠告に反する行動ばかりを繰り返した彼は、遂に通信教育学校から退学処分を受けることになってしまった……。
- 退学処分を受けたモーランが、その不名誉をどうやって返上するかが見どころです。どことなくほのぼのとしたラストも印象的です。
- 「P・モーランと脅迫状」 P.MORAN, and the Poison Pen
- 脅迫状を受け取った銀行の支配人から犯人探しを依頼されたモーランは、早速調査を開始したものの、なかなか真相はつかめない。そうこうするうちに、うっかりとんでもないミスを犯してしまう。そこへ、報酬の匂いを嗅ぎつけた“主任警部”が介入しようとするが……。
- モーランの犯したミスが好都合な結末につながっていくという、まさに結果オーライの作品です。また、この作品あたりから、事件解決の報酬をめぐるモーランと“主任警部”の攻防が激しくなっていくところにも注目です。
- 「P・モーランと消えたダイヤモンド」 P.MORAN, Diamond-Hunter
- フィンドレイ邸で開かれた収集家の集まりの席上、出席者が持参した11個のダイヤモンドが消え失せてしまった。捜索の依頼を受けたものの、ダイヤを発見できないモーランは、ガールフレンドのマリリンの助言を受けて過去のミステリにヒントを求めるが……。
- アーサー・コナン・ドイル「六つのナポレオン」など、過去のミステリのパロディ仕立てとなっている作品です。様々な可能性が否定されていった後に残った真相は、非常によくできていると思います。ミステリとしては、本書の中でベストの作品でしょう。
- 「P・モーラン、指紋の専門家」 P.MORAN, Fingerprint Expert
- 郵便強盗を発見して賞金を手に入れるために、指紋検出セットを取り寄せたモーランは、早速人々の指紋を集めて回るが、なかなか賞金には結びつかない。そんな中、〈サリー・イン〉で不審な新入りのウェイターを発見したモーランは……。
- 最後に明らかになる真相は、ある意味で実に意外なもので、強く印象に残ります。しっかりした伏線もお見事。
2003.02.12読了 [パーシヴァル・ワイルド] |