カーテンの陰の死/P.アルテ
La mort derriere les rideaux/P.Halter
1989年発表 平岡 敦訳 ハヤカワ・ミステリ1773(早川書房)
まず、ナイフ投げという密室トリックについては、やはり脱力を禁じ得ません。実現不可能でないとはいえ特殊技能に基づくトリックですから、極端にいえば“超能力を使った殺人”に通じる反則技ともいえます。読み返して確認する気力がないのですが、おそらく犯人がナイフ投げの名人だという伏線もないでしょう(あったら真相が見え見えになってしまいます)。
しかも、犯人の特定が結局このトリック頼りだというのは残念ですし、殺人の動機にもかなり無理があるといわざるを得ません。ただ、犯人が殺人者の目で状況を見直すことで、七十五年前の事件の謎を解くことができたというところは面白いと思います。
下宿人のスミスがかなり露骨に怪しく描かれているので、これはレッドヘリングに間違いないだろうと予想し、実際にそれは的中したのですが、「エピローグ」のさらにもう一段のオチには意表を突かれました。「中西理の大阪日記 2006-01-03」で指摘されているように、本書には献辞で名前が挙げられたジョン・ディクスン・カー、アガサ・クリスティ、S=A・ステーマンへのオマージュの要素があるのですが、最後にエドガー・アラン・ポー「黒猫」(ともう一つ;217頁参照)の本歌取りで締めるという展開が見事です。
2006.03.29読了