家に棲むもの/小林泰三
2003年発表 角川ホラー文庫 H59-5(角川書店)
一部の作品のみ。
- 「家に棲むもの」
- 高い天井と電球の傘という舞台装置、そして芳の呆け(たふり)が相まって、一風変わった“見えない人”トリックになっているのが面白いところです。また、サイコホラー的な序盤の状況がすっかり合理的に解体され、どこかほのぼのとしたハッピーエンド(?)になってしまうという豪腕が見事です。
- 「食性」
- それぞれ極端に押し進められた易子と練子の主張が、いかにも作者らしく感じられます。そして、あえて直接的な描写をせずに
“わたしは無罪になった。”
(95頁)と表現してしまうセンスも秀逸です。
- 「五人目の告白」
-
“君が僕に推理して欲しいと期待する内容を推理しよう”
(127頁)という、何ともひねくれた推理ゲームが非常に面白いと思います。そして“五人目”と“六人目”が対決するという“ルール違反”
の“真相”も。
ちなみに、“白女”は「獣の記憶」(『肉食屋敷』収録)に登場したあの人でしょうか。
- 「肉」
- 後半になって登場する丸鋸の家の様子は、「肉食屋敷」(『肉食屋敷』収録)そのもの。これほどかぶっているのは、セルフパロディを狙った意図的なものでしょう。それにしても、最後の最後にようやく現れる丸鋸のとぼけた味が何ともいえません。
- 「魔女の家」
-
“さいしょにまほうをつかったのは、そっちのほうなんだから。”
(207頁)という最後の一文をみると、“ぼく”もまた“まほう”を使って“まほうをといた”
という風にも考えられます。それは、「友達」(『脳髄工場』収録)の“ドッペル”のようなものだったのでしょうか。