一部の作品のみ。
- 「イカルスの翼」
- 小惑星イカルスで生き延びる手段は、比較的簡単に発見されています。というよりも、光電管など、情報省がお膳立てを整えてくれているようです。やはり、情報省はすべてを計算しつくしていたのでしょうか。
- 「時間礁」
- “正のフィードバック”と“負のフィードバック”という手段の対比が非常に面白いと思いますし、土岐が宇宙全体のことを考えて連絡艇に乗り込むというのもいいと思います。自己犠牲ではなく、宇宙との一体感を感じながら、そしていつか起こり得るもう一人の自分との出会いを思いながら、というところが感動的です。
- 「暗黒星団」
- “重ね合わせの定理”や“ライデンフロスト現象”など、イメージしやすい比喩を用いて説明されているのが親切です。そして、通常物質と反物質との間の世代交番というアイデアは魅力的です。
- 「迷宮の風」
- 惑星全体を利用した巨大な流体素子という発想は面白いと思いますが、それ以上のひねりがないところが残念です。
- 「最後の接触」
- 大脳と筋肉系とが分離された後、上下2段に分かれてそれぞれ“私”・“おれ”という一人称で語られているのが印象的です。不幸な接触になってしまったのは、やはり近親憎悪の一種なのでしょうか。
- 「電送都市」
- 情報の重要度を決定し、それに応じて保護するというのは、非常にわかりやすいと思います。肉体を構成する情報だけでなく、意識を構成する情報も電送する必要があるわけですから、強烈な自意識を持つ人物にとっては、肉体よりもその自意識の方が重要となることもあり得ると思います。
- 「骨折星雲」
- 折れ曲がった銀河面に挟まれた空間そのものをメモリーとして使用するという奇想には驚かされます。そして、そこで出会った存在に圧倒されながらも、新たな使命感、あるいは野望に燃えるマキタの姿が印象的です。
- 「遺跡の声」
- ラストでテトラニティと融合したトリニティは、地下に眠る十億体の有機生命体を滅ぼしてしまいます。これは、トリニティが“私”との精神的な絆を完全に断ち切ったことを象徴するような場面です。「太陽風交点」に始まり、この作品に至るまでの間(これらのエピソードは『遺跡の声』に収録されています)に“私”とトリニティが築き上げてきたはずのパートナーシップが、一瞬にして消え去ってしまったという事実には、深い無常感を覚えます。
- 「悪魔のホットライン」
- エントロピーを減少させるマックスウェルの悪魔が、代償として自分の持つ情報を失ってしまうという設定が面白いと思います。そして、情報を失ってしまう〈マックス〉と、彼に思い出を提供する“私”という二人の関係が魅力的です。
2000.04.28再読了
|