ミステリ&SF感想vol.4 |
2000.05.09 |
『太陽風交点』 『そして扉が閉ざされた』 『プレード街の殺人』 『花嫁のさけび』 |
太陽風交点 堀 晃 | |
1979年発表 (徳間文庫214-1・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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チョウたちの時間 山田正紀 |
1979年発表 (角川文庫 緑446-7・入手困難) |
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そして扉が閉ざされた 岡嶋二人 | |
1987年発表 (講談社文庫お35-12) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] まず、事件の関係者が密室に監禁され、事件の真相を推理するという設定がユニークです。岡嶋二人はシリーズの探偵をほとんど作らず、大多数の作品では、ごく普通の人間が事件に巻き込まれて推理せざるを得なくなるというパターンになっています。これは読者にとって、探偵役に感情移入しやすくなると同時に、探偵役の思考を追うことで推理の過程を身をもって体験することが可能となるのです。そしてこの作品では特に、“推理するという行為”自体に強い必然性があります。関係者たちにとっては、その推理に自分たちの命がかかってくることになるのですから。
推理自体も魅力的です。一人の視点ではどうしても事件全体を把握しづらくなってしまう部分がありますが、複数の関係者が一緒に閉じ込められることで、複数の視点からの証言・推理をまとめあげ、真相に近づいていくという、ブレインストーミングのような手法となっています。次々と提示される細かい手がかりもよくできていますし、三ヶ月前の記憶をもとに推理するということで、手がかりが少しずつ提示される(思い出される)ところにも説得力があります。 岡嶋二人後期の、間違いなくミステリ史上に残るべき傑作です。 2000.05.03再読了 [岡嶋二人] |
プレード街の殺人 The Murders in Praed Street ジョン・ロード | |
1928年発表 (森下雨村訳 ハヤカワ・ミステリ244) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] ジョン・ロードといえば、J.D.カー(C.ディクスン)との合作『エレヴェーター殺人事件』でトリック部分を担当したということもあって、何となくトリックメーカーというイメージを持っていましたが、この作品では意外にも、ユニークなプロットで読ませてくれます。特に前半は、被害者たちの隠されたつながりを求める展開で、強く興味をひきます。
逆に後半、特に最後はあっけなく感じてしまいますが、全体的にはまずまずの作品といえるでしょう。 2000.05.05読了 [ジョン・ロード] |
花嫁のさけび 泡坂妻夫 | |
1980年発表 (講談社・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 趣向が前面に押し出された『11枚のとらんぷ』・『乱れからくり』、そして大がかりなイリュージョンが仕掛けられた『湖底のまつり』と、それぞれにマニアックともいえる作風を披露してきた泡坂妻夫ですが、それらの作品に続いて発表された本書は、名作を下敷きにした王道のサスペンスの中に、実に巧妙に伏線とミスディレクションを張りめぐらせた作者の腕が光る、端正な印象のミステリとなっています。
妻を事故で亡くした男に見初められ、新妻として豪壮な邸で暮らし始めた主人公が、そこかしこに残る前妻の影に脅かされていく――というプロットから、D.デュ・モーリアの小説/A.ヒッチコックの映画『レベッカ』の“本歌取り”(*1)とされる本書ですが、主人公の夫・北岡早馬が人気俳優であり、新作の映画〈花嫁の叫び〉が製作されていく様子が大幅に取り入れられているあたり、『レベッカ』(映画)の“本歌取り”であることを強調する狙いもあるのかもしれません。 名作が下敷きにされているゆえか、はたまた“前妻の影との対決”という構図そのものが普遍的な訴求力を備えているのか、いずれにしても主人公・伊津子への感情移入は非常にたやすく、物語に入り込みやすくなっているのは確かです。とりわけ、序盤から中盤にかけて伊津子が新たに出会う人々がことごとく、才色兼備だった早馬の前妻・貴緒を無神経とも思えるほどにほめそやす(*2)ことで、読者としては伊津子に対して判官びいきにも似た感情を抱かずにはいられないでしょう。 貴緒は死してなお、伊津子を拒絶するかのように強烈な存在感を放ち、早馬と伊津子の結婚祝いも兼ねた撮影の打ち上げでさえ、いつの間にか “急死した美しき貴緒を悲しむパーティ”に姿を変える中、これまた貴緒が考案したという“毒杯ゲーム”でついに事件が起きます。毒薬ミステリでは定番といえば定番ですが、“毒杯”が誰の手に渡るかまったくわからないという状況は――ゲームのルールも相まって――非常に強固で、不可解さとともに不安感が一気に高まるのが秀逸です。 さらに、貴緒の“事故死”――密室でのガス中毒死――までもが掘り起こされ、いよいよ事態が風雲急を告げるクライマックスにおいて、突如明らかにされる真相はある意味で衝撃的。(一応伏せ字)多少はそれを予感させる部分がないでもない(ここまで)のですが、真相が明示されてもなお「まさかそんなはずは」と思わせる強力なミスディレクション、そして一つ一つ積み上げられることで説得力をもたらす膨大な伏線と、冴え渡る職人芸には脱帽せざるを得ません。 最後の最後まで注意深く伏せられてきた“あるもの”が、事件の真相と同時にあらわにされることで鮮烈な印象をもたらし、そのまま効果的な演出が施された結末につながっていくあたりも実に見事。名手・泡坂妻夫の、稚気に満ちた趣向や逆説的なロジックなどとは違った一面を代表する傑作といえるでしょう。
*1: 実は私自身も『レベッカ』は未読/未見ですが、そのあらすじ(例えば「レベッカ (映画)#あらすじ - Wikipedia」などを参照)を押さえておく程度でも、本書を楽しむには十分かと思われます。
*2: 例外的な人物もいるにはいますが。 2000.05.07再読了 2009.05.26再読了 (2009.07.06改稿) [泡坂妻夫] |
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