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テクニカラー・タイムマシン/H.ハリスン

The Technicolor Timemachine/H.Harrison

1967年発表 浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF193(早川書房)

 この作品のクライマックスでは、“出発した時点より前には戻れない”というタイムマシンの設定がうまく生かされています。この設定を強調することによって、あたかも映画を締め切りに間に合わせることが不可能であるかのような演出がなされているのです。実際には248頁の図を見れば一目瞭然で、誰もこの解決策に気づかなかったというのは若干不自然に感じられるかもしれませんが、それまでの時点ではこのような特殊なタイムトラベルの必要がなかったのですから、妥当といってもいいのではないでしょうか。

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 なお、蛇足かもしれませんが、タイムマシンが“時間的転置だけでなく、空間的転置もできる”(26頁)というヒューイット教授の台詞について補足しておきます。どうやって実現するかはともかくとして、“時間的転置”しかできないタイムマシンは実質的に使い物になりません。なぜなら、地球(だけではありませんが)自体が絶えず移動しているからです。“時間的転置”だけでは転移した先に地球があるとは限らないので、“空間的転置”によって位置を補正する必要があります。つまり、“実用的なタイムマシン”は、空間内の任意の位置に転移する機能を持っていなければならないのです。厳密にいえば、運動量を補正する機能も必要になるでしょう。
 (このあたりの話に興味のある方は、L.ニーヴン「タイム・トラベルの理論と実際」『無常の月』収録)をご参照下さい)

2003.04.25再読了

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