ミステリ&SF感想vol.11

2000.07.27
『マネキン人形殺人事件』 『無常の月』 『コンピューター検察局』 『暗殺心』


マネキン人形殺害事件 Le Mannequin Assassine  S=A・ステーマン
 1931年発表 (松村喜雄訳 角川文庫 赤535-1・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 田舎の小さな村でその事件は起こった。洋服屋のショーウインドウからマネキン人形が盗まれ、顔をつぶされた上に心臓にナイフを突き立てられた状態で、線路の上に横たえられていたのだ。偶然立ち寄ったマレイズ警部は、マネキン人形殺害事件の真相を探るうちに、一年前に起きた謎の事件に迫っていく……。

[感想]
 大ネタ一発ではなく、いくつかの謎が複合した、ステーマンらしからぬ(?)作品です。その分、演出の鮮やかさに欠ける面もありますが、前半こそやや単調になっているものの、謎が収束していく後半の展開はよくできています。
 “人形殺害”といえばどうしても高木彬光の傑作『人形はなぜ殺される』と対比せざるを得ませんが、こちらの作品ほどの必然性は感じられないとはいえ、即物的でなく純粋に心理的な“人形殺害”の理由は、犯人の心理を浮き彫りにするという意味でまずまずのものだと思います。
 惜しむらくは、被害者の人物像が物足りないところでしょうか。

 なお、本書はBishopさんよりお譲りいただきました。あらためて感謝いたします。

2000.07.18読了  [S=A・ステーマン]



神狩り  山田正紀
 1975年発表 (ハルキ文庫 や2-1)

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無常の月 All the Myriad Ways  ラリイ・ニーヴン
 1985年発表 (小隅 黎・他訳 ハヤカワ文庫SF327・入手困難

[紹介と感想]
 『リングワールド』などで有名なニーヴンの、非シリーズの短編を中心としたバラエティに富んだ作品集です。
 なお、〈ノウンスペース・シリーズ〉(人類の既知空域を舞台としたニーヴンの未来史。長編7作と短編集3作からなる。)に属する「待ちぼうけ」・「ジグソー・マン」・「地獄で立往生」の3篇は、『太陽系辺境空域』にも収録されています。
 ベストは、「終末も遠くない」「無常の月」

「時は分かれて果てもなく」 All the Myriad Ways
 絶え間なく枝分かれしていく時間線。並行世界が発見され、時間線を横断して貿易を行う並行世界事業団{クロスタイム・コーポレーション}が発足してから、謎の自殺、そして不可解な犯罪が続発する……。
 SFではおなじみの“並行世界”という概念をシニカルに描いた作品。個人的には、世界が分岐し続けるという考え方には納得いかない部分があります。

「路傍の神」 Passerby
 宇宙からやって来たラムジェットのパイロット、“ラマー”は、幼い少年の行動を目にしてショックを受けたようだった。やがて気を取りなおした彼は、宇宙空間での奇妙な体験を語り始める……。
 幼い少年の行動とのアナロジーで暗示されるものが、非常に印象的です。

「霧ふかい夜のために」 For a Foggy Night
 濃霧に包まれた夜、“わたし”は酒場で出会った男と話しているうちに、自分のホテルを見失ってしまう……。
 酒場での何気ない会話から始まって、物語はとんでもない展開を見せます。

「待ちぼうけ」 Wait It Out
 冥王星へと送りこまれた着陸船で事故が発生した。離陸することができなくなってしまったのだ。窮地に陥った乗組員がとった行動は……。
 乗組員の行動と、それによって引き起こされた結果が秀逸です。印象に残る作品です。

「ジグソー・マン」 The Jigsaw Man
 間違いなく死刑が宣告され、自分は解体されてしまうのだ――判決を翌日に控えた男は、監房の中であてのない恨みを抱えていた。と、その時、同室の臓器故買犯が……。
 臓器移植が発達したために、解体され、移植用の材料とされてしまう死刑囚というのも強烈ですが、最後のオチで示される戦慄すべき未来の姿は圧倒的です。
 ちなみに、同様の社会を描いた作品としては、『地球からの贈り物』『不完全な死体』及び『パッチワーク・ガール』などがあります。

「終末も遠くない」 Not Long Before the End
 遠い昔、魔法が自由に使われていた時代。〈魔術師〉を倒しにやってきた若い剣士は、魔剣〈グリランドリー〉を手にしていた。持ち主にとりつくことで不死身に近い状態にさせる能力を持つ魔剣に対して、〈魔術師〉がとった対応策とは……?
 魔術師を主人公とした〈ウォーロック・シリーズ〉の作品です。魔法にあるアイデアを組み合わせることによって、世界にリアリティを持たせています。さらにこのアイデアを発展させることで、ハードな問題提起を行い、ある種の解決までも与えた、見事な作品です。
 なお、ウォーロック・シリーズは、この作品(『魔法の国がよみがえる』にも収録されています)の他に、続編として「ガラスの短剣」『ガラスの短剣』に収録)及び長編『魔法の国が消えていく』があり、さらに他の作家によるシェアード・ワールドとして前記の『魔法の国がよみがえる』及び『魔法の国よ永遠なれ』(以上すべて創元推理文庫)があります。

「未完成短篇 一番」 Unfinished Story #1
「未完成短篇 二番」 Unfinished Story #2
 ショートショート……というか何というか。

「スーパーマンの子孫存続に関する考察」 Man of Steel Woman of Kleenex
「脳細胞の体操――テレポーテーションの理論と実際――」 Excercise in Speculation : The Theory and Practice of Teleportation
「タイム・トラベルの理論と実際」 The Theory and Practice of Time Travel
 以上3篇は小説ではなく、ニーヴンお得意の思考実験の過程を味わうことができるエッセイです。ニーヴンが一つのアイデアをどれほど突き詰めて考えるか、そしてどれほど膨らましているかがよくわかります。
「スーパーマン」:これはお題がお題だけに、なかなか笑えます。
「テレポーテーション」:これは、西澤保彦『瞬間移動死体』の元ネタとなっていることでも知られているかもしれません。この中には、後の作品で使われているアイデアも登場しています。
「タイム・トラベル」:これを読めば、ニーヴンがタイムトラベル小説を書かない理由がよくわかります。

「無常の月」 Inconstant Moon
 今夜の月は、とてつもない明るさだった。まぶしいほどに。恋人を真夜中のデートに連れ出した“ぼく”は、やがて恐るべき真実に気づいた……。
 静かに、しかし急速に進行する破滅を、そしてそれを迎える人々の姿を見事に描ききった傑作です。

「マンホールのふたに塗られたチョコレートについてきみには何が言えるか?」 What Can You Say about Chocolate Covered Manhole Covers?
 次から次へと様々な話題を持ち出し、パーティで人気者のトム・フィンリイ。彼は今夜も色々なテーマで議論を巻き起こしていたが……。
 この作品は、実に予想もつかない展開です。アダムとイブに関する考察が秀逸です。

「地獄で立往生」 Becalmed in Hell
 サイボーグ宇宙船の“エリック”とハウイーのコンビは、金星へ調査にやってきた。調査を終えて帰途に着こうとしたその時、エリックが突然ラムジェットの感覚を失ってしまい、立ち往生することになってしまった……。
 エリックとハウイーの掛け合いが楽しい作品です。立ち往生の解決策と、最後のオチも印象に残ります。

2000.07.21再読了  [ラリイ・ニーヴン]



コンピューター検察局 The Transvection Machine  エドワード・D・ホック
 1971年発表 (風見 潤訳 ハヤカワ文庫HM67-1・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 21世紀半ばのアメリカ・カナダ合衆国。物体光速転移装置〈トランスヴェクション・マシン〉の発明者デフォーは、虫垂炎の手術を受けることになった。名医の技術をプログラムされた外科手術マシンによって、手術は簡単に終わるはずだった。だが、安全なはずのマシンのメスは、デフォーの腹を狂ったように切り裂き、彼はあっけなく死んでしまった。事故か、それとも殺人か? 合衆国大統領はVIP死亡事件を重く見て、コンピューター犯罪を取り締まるコンピューター検察局の長官であるクレイダーに、事件の調査を命じるが……。

[感想]
 短編の名手として知られるホックの、数少ない長編の一つです。21世紀半ばの合衆国を舞台としたSFミステリですが、現代との最大の違いは社会の機械化・コンピューター化が進んでいる点です。コンピューター犯罪が増加したために専門のコンピューター検察局が設置される一方、過度の機械化に反対する人々は革命グループを結成し、コンピューター社会に異議を唱えています。コンピューター検察局の長官であるクレイダーと、この革命グループとの対決も見所の一つです。

 事件の方は、容疑者こそ多数いるものの、犯行手段はなかなか明らかにすることができません。さらにデフォーの発明品である〈トランスヴェクション・マシン〉が絡んでくるわけで、事態はますます混迷を深めていきます。

 大胆なトリックと細かい伏線。社会背景をきっちりと描きながらミステリのツボも押さえた、よくできた作品といえるでしょう。

2000.07.23再読了  [エドワード・D・ホック]



暗殺心{アサッシン}  都筑道夫
 1983年発表 『銀河盗賊ビリイ・アレグロ/暗殺心』創元SF文庫733-03/徳間文庫103-7・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 夢迦{ムカ}国の王女・真晝{マヒル}は、父王と家族を謀殺した五人の王に復讐するため、当代随一の刺客と名高い鹿毛里{カゲリ}を探し求める。長い旅の末に、ようやく鹿毛里への橋渡しをしてくれるという非無呂{ヒムロ}老人を見つけることができたものの、真晝はなぜか依頼する間もなく衆人の目前で非無呂老人を殺してしまう。殺人犯として牢屋に押し込められた真晝だったが、その目の前に鹿毛里が姿を現して――かくして、真晝は鹿毛里とともに復讐の旅に出る。その行く手を阻む、それぞれに奇怪な特技を駆使する刺客たちとの戦いを重ねながら……。

[感想]
  2014年7月、『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』との合本という形で創元SF文庫から復刊された本書は、東洋風の架空の世界を舞台にした傑作“ニンジャ・ファンタジイ”*1。“アメリカの作家が書いた、忍者が主人公のヒロイック・ファンタジイ”というコンセプトは、同じ作者の『三重露出』にも通じるユニークなもので、ほとんどの固有名詞が漢字+片仮名ルビで表記されて*2(純和風ではない)微妙なオリエンタリズムの漂う独特の舞台で、五人の王たちへの復讐という困難な目標を軸とした凄絶な戦いが繰り広げられる痛快な冒険譚は、実に魅力的です。

 発端ではトラブルもありますが、真晝の依頼を引き受けてともに復讐の旅に出る鹿毛里に対して、報酬もさることながら鹿毛里を倒して天下一の名声を得ることを目的として、次々と戦いを挑んでくる刺客たち――その奇怪な特技の数々は、同じ作者の『なめくじに聞いてみろ』の殺し屋たちを思い起こさせるところがあり、山田風太郎の忍法帖に登場する“忍法”に比べるとやや控えめな印象ながらも、次はどんな手でくるのかと楽しませてくれますし、(巻末の「あとがき」「解説」「編者解説」*3を先に読むとわかってしまいますが)そこに“ある趣向”が用意されているところなどはしゃれています。

 そのような敵とは対照的に、当代随一の刺客たる鹿毛里は、“特技をもった刺客は、その特技から離れられないものだ。そして、特技で身をほろぼす(中略)だから、わたしには特技がないのだ”と、刺客としての哲学を口にしているのが鮮やかな印象を残します。そして、特技を持たない鹿毛里が刺客たちに対抗するために、ちょっとした手がかりから敵の特技を見抜き、それに合わせた対策を練っていくのが大きな見どころで、アクションだけでなく謎解きと頭脳戦の味わいも加わった戦闘は、ミステリ作家で(も)ある都筑道夫の面目躍如といったところでしょう。

 序盤から中盤にかけては、一話(?)*4で決着がつく連作短編的な構成で進んでいきますが、復讐もいよいよ大詰めとなる終盤、最後に残された真晝の故郷・夢迦国での物語にはしっかりと分量が割かれ、過去の回想なども交えた読みごたえのあるエピソードとなっています。もちろん最後の戦いも、これまでとは一味違った趣向で読ませてくれます。そしてついに戦いが終わった後の、よく考えられた見事な幕引きがまた秀逸。個人的には都筑道夫の中で一番好きな作品で、大いにおすすめです。

*1: 徳間文庫版の惹句より。
*2: 題名もいうまでもなく、英語の“assassin”(暗殺者)の当て字です。
*3: 合本の『銀河盗賊ビリイ・アレグロ/暗殺心』の巻末には、日下三蔵氏の「編者解説」に加えて、徳間ノベルス版の「あとがき」と徳間文庫版の「解説」も収録されています。
*4: 本書では、「第○話」「第○章」の代わりに「第○と表記されています。

2000.07.25再読了
2014.08.02再読了 (2014.08.23改稿)  [都筑道夫]


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