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月の扉/石持浅海

2003年発表 カッパ・ノベルス(光文社)

 この作品の中心となる謎は、“なぜハイジャック事件の最中に殺人を犯さなければならなかったのか?”であり、また同時に“なぜ被害者を殺さなければならなかったのか?”でもあります。この両者は実は分かちがたく結びついているのですが、ハイジャック犯グループの一人、すなわちキャンプの“内側”のメンバーである聡美の視点で描かれていることで、後者の真相が巧妙に隠されているのがポイントです。そしてその動機は、聡美たちがハイジャック事件を起こした動機と相まって、一際印象深いものとなっています。

 殺人のトリック自体はさほどのものではありませんし、機内への凶器(カッターナイフ)の持ち込みが(ハイジャック犯たちに比べて)ややおざなりに感じられるのは難点ですが、被害者を罠へと誘導する仕掛けはよくできています。子供を人質に取られて追いつめられているという状況を考えれば、被害者がそれにはまってしまうのも必然というべきでしょう。

 ハイジャック犯たちの“師匠”への心酔ぶりをみると、本当に“飛んで”しまうという幻想的な結末以外には、この全員死亡という結末しか考えられないでしょう(“師匠”が“偽物”であり、“飛ぶ”ことができないまま逮捕される、つまり“師匠”に裏切られるという結末では、あまりにも救いがありません)。しかし、そこへ持っていくために柿崎の裏切りというきっかけが用意されているのが秀逸です。柿崎としては、その行動には完全に筋が通っているのですから。

 ところで、エピローグで示唆されているように、“飛ぶ”ことが現世から姿を消すことを意味しているのであれば、“師匠”自身は“飛んで”いないと考えるべきでしょう。ということは、柿崎の子供のみならず、(転生した)真壁や聡美にも再びチャンスがめぐってくると考えることができるのではないでしょうか。

2004.09.07読了

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