[紹介]
〈死後〉
周囲から隔絶された場所に建つ館で、ひっそりと暮らす6人の死者たち――メアリ、サラ、ジェシカ、スザンヌ、“ミス・スマイル”、そして“お嬢ちゃん”こと私。“SUBRE”と“MESS”という怪しげな機械によって、死からよみがえり、記憶が白紙に戻るとともに擬似記憶を植え付けられるというプロセスを繰り返す彼女たちの前に、生きた人間がさまよい込んできたのだが……。
〈生前〉
クリスティンの結婚祝いと留学するジュディの送別会を兼ねて、マーカス、タッド、スタンリーという高校の同級生が一堂に会した夜。クリスティンの弟・フレッドが、クリスティンの自宅で何者かに殺害されてしまうという事件が起きる。そしてさらに……。
[感想]
アメリカの田舎町で起きる連続殺人を描いた〈生前〉のパートと、死者の復活というSF設定を扱った〈死後〉のパートからなる特殊な構成の、作者お得意のSFミステリです。とはいっても、山口雅也『生ける屍の死』のように連続殺人の被害者たちが次々と生き返ってくるというわけではなく、二つのパートはほぼ独立した形で交互に語られていきます。
〈生前〉のパートでは、高校の同級生たちを巻き込む連続殺人事件が扱われています。高校時代にその美貌で“女王”として君臨し、今もなお男たちに影響力を及ぼすクリスティンを中心とした、ややドロドロとしたものさえ感じられる人間模様が印象的ですが、正直なところ、ミステリとしての出来はあまりよくないといわざるを得ないでしょう。ただし、それが本書のメインというわけではありません。
一方、〈死後〉のパートは、分量も少ない上に似たような内容の繰り返しになっていますが、〈生前〉のパートと対照的な淡々とした雰囲気(いかにも“生ける屍”らしい、というべきかもしれません)がいいアクセントになっています。SF設定は最初の章でほぼすべて説明されており、設定そのものは比較的わかりやすいのではないかと思います。
交互に語られてきた〈生前〉と〈死後〉が、終盤の〈クロスオーヴァー〉においてついに交差することになります。ここからは怒濤の展開で、スリリングな“対決”を通じて次々と真相が明らかになるクライマックスは圧巻です。ただし……エピローグに用意された“最後の一撃”は、あまりに意外すぎて困惑を招いてしまうという困ったもの。一応の伏線はあるのですが、整合していないように受け取れる部分もあり、パズラーとしてはやや問題があるように思えます。意欲的で面白い作品であるだけに、もったいないところです。
2004.08.30再読了 [西澤保彦] |