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密室に向かって撃て!/東川篤哉

2002年発表 カッパ・ノベルス(光文社)

 まず、本書のメイントリックを整理しておきます(括弧内の数字は残弾数です)。

 偽装真相
中山のアパート中山が発射(6?)中山が発射(7)
中山が発射(5?)中山が発射(6)
海岸金蔵射殺(4?)金蔵射殺(5)
殺人現場(予定) 地面に発射(4)
 鵜飼狙撃(3)鵜飼狙撃(3)
佐野の移動中地面に発射(2)空中に発射(2)
神崎射殺(1)空中に発射(1)
殺人現場佐野の左腕貫通(0)佐野の左腕貫通→神崎射殺(0)

 つまり、メイントリックは密室状況からの犯人消失に見せかけたアリバイトリックであり、それを可能にしたのがいわば銃弾(銃声)の“一人二役”トリックということになります。そしてまた、あらかじめ地面に1発撃ち込んでおくことで射殺のタイミングを誤認させているところもポイントです。

 しかしこの“一人二役”トリックには、2発分の銃弾を残すことができないという大きな弱点があります。つまり、佐野と神崎が別々に撃たれたことを裏付けるのが(誤認された)銃声しかない状況では、佐野の左腕の貫通銃創がいかにも怪しいものに思えてしまいます(余談になりますが、この点を考えるとやはり逆のパターン、すなわち銃弾の“二人一役”トリックの方が効果的だと思われます)

 また、鵜飼による“銃弾のカウントダウン”も今ひとつしまらないものになっています。上記のように、あらかじめ地面に撃ち込まれた銃弾が重要なポイントであるにもかかわらず、カウントダウンという演出のために早い段階(4発目)でそれが明らかになってしまいますし、あとはごく簡単な算数の問題でしかありません。

 もう一つ、ネタの扱い方についても、特に前作『密室の鍵貸します』と比べて物足りなく感じられるところがあります。
 以下、『密室の鍵貸します』の内容に触れますので、そちらを未読の方はご注意下さい
(以下伏せ字)

 両方を読んだ方はおわかりのように、どちらも密室ものに見せかけたアリバイものになっています。
 どこかで誰かが指摘していたはずなのですが(思い出せません)、密室はいわば空間的な“アリバイ”(現場不在証明)であり、アリバイは時間的な“密室”であるという風に、密室とアリバイには一種の類縁関係があるといえます。実際、時間に基づいた密室トリック(例えば、犯行時刻の錯誤によるもの)もありますし、空間に基づいたアリバイトリック(例えば、死体の移動によるもの)もあります。つまり、単純な密室←→アリバイの変換は、さほど難しいものではないといえるのではないでしょうか。
 そう考えると、密室殺人の被害者がアリバイトリックを仕掛けていたという前作『密室の鍵貸します』に対して、上で挙げた“時間に基づいた密室トリック”の例そのままの本書は、ひねりが不足しているといわざるを得ないでしょう。
(ここまで)

 メインの謎よりもむしろ、助手の戸村が目をつけた動機につながる手がかりや、トリックによって佐野の左腕の古傷が隠滅されるという一石二鳥の効果、そしてを使ったテストというアイデアなどが面白く感じられます。

2005.05.06読了

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