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  4. 毒蛇の園

毒蛇の園/J.カーリイ

A Garden of Vipers/J.Kerley

2006年発表 三角和代訳 文春文庫 カ10-3(文藝春秋)

 法月綸太郎氏の解説で引用されている作者のコメント*1をみるまでもなく、例えば刑務所内で毒殺されたリーランド・ハーウッドをめぐる下り――“金をもらってのパフォーマンスだった”(55頁)“財政面の面倒は見てもらえる”(62頁)――などから、キンキャノン一族が事件の核心に位置することは明らかでしょう。もちろん序盤の時点ではルーカスが不確定要因となってはいますが、無一文だったルーカスにはハーウッド絡みで金を使うことができないわけですから、キンキャノン一族に後ろ暗いところがあるのはほぼ確実といえます。

 というわけで、バックが真犯人だったことに驚きはありませんし、やはりキンキャノンの一員だったことが明らかにされたルーカスが“真の黒幕”だったという結末もさほど意外ではないのですが、しかしそこで浮かび上がる精妙な“操り”の構図*2は何とも薄ら寒いものを感じさせます。とりわけ、どのような結果になるか十分に承知した上でタニーシャ・フランクリンを自身の計画に取り込んでおきながら、“遵守すべき手続き”(211頁)としてタニーシャの葬儀に参列するというちぐはぐさが印象的です。

 カーソンとハリーの同僚、ローガンとシャトルズのコンビが最後まで事件に絡んできたのは少々意外でしたが、その“役割の逆転”はなかなか巧妙。そして、最後のローガンの思わぬ活躍が鮮やかな印象を残しています。

*1: “『毒蛇の園』のアイデアのひとつは、「欠陥がある」ために家名の恥になると見なされた家族の一員を、初めからいなかったかのように世間から隠そうとしたアメリカの名門政治家の一族から来ている。もうひとつは、だんびらを振り回すように金を使う連中を見てきたからだ。”(472頁)
*2: 最後にメイリーンがバックらを見捨てたのには驚かされましたが、それも間違いなくルーカスの見込み通りなのでしょう。

2009.12.16読了