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和時計の館の殺人/芦辺 拓 |
2000年発表 カッパ・ノベルス(光文社) |
(注意!:以下の伏せ字部分は、よく似た題名の先行作品を読んだ方だけ範囲指定して下さい)
まず冒頭の叙述トリックですが、迂闊にも完全に見逃していました。あまりにもさりげなさすぎるのも問題ですが、 遺言状に仕掛けられた暗号は、わかりやすい部分もあるかもしれませんが、糊付けによって読み上げる速度をコントロールすることで、音声として浮き上がらせる、という試みが面白いと思います。 一方、中心となる和時計のトリックには、一部のSFミステリでよくみられるような弱点があると思います。例えば“ブラックボックス型トリック”とでもいいましょうか、1)仕掛けの所在が明らかであり、2)具体的な仕組みは複雑でわかりにくい、つまり、読者にとっては今ひとつ面白味に欠ける類のトリックです。本書でいえば、和時計が扱われている以上、そこに何らかの仕掛け(時刻トリック)がある可能性が高く、しかしその仕組みは大半の読者にとっては複雑怪奇であるため、そこで思考停止してしまいやすい、ということです。結果として、“何だかよくわからないけれど和時計に仕掛けがあるのだろう”というところで読者が満足してしまい、トリックが具体的に解明されてもさしたるインパクトがないという羽目になります。 その意味で、最後の事件、すなわち田波詮子墜落のトリックは、鐘の鳴る数というわかりやすい事象に基づくものであり、しかもその他のメカニズムは和時計と無関係のものであるため、意表を突いた感があります。 2004.12.26読了 |
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