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衣裳戸棚の女/P.アントニイ

The Woman in the Wardrobe/P.Antony

1951年発表 永井 淳訳 創元推理文庫299-01(東京創元社)

 まず、“戦後最高の密室ミステリ”という評がミスディレクションとして機能しているようにも思えます。現場の密室トリック自体は、被害者が死ぬ前に施錠したという古典的なものにすぎません。この作品のポイントとなるのは密室トリックではなく、意外な“犯人”を成立させるための密室の使い方なのです。作者が密室を登場させたのは探偵役のヴェリティ氏に“犯行”の機会を与えるためであり、その流れからいけば被害者自身が内側から施錠するという古典的なトリックが最も自然です。

 そして、被害者が施錠したという真相を見抜きにくくしているのが、レッドヘリングとしての“衣裳戸棚の女”の存在です。パクストンとカニンガムがドアや窓から脱出していることから、その後に現場が施錠されたことは明らかなのですが、被害者が既に死んでいたことを示唆するパクストンの証言と、現場の衣裳戸棚の中に閉じ込められていたアリスの存在によって、彼女が施錠したのではないかという疑惑が大きくなり、真相がうまく隠されています。

 さらに、カニンガムの銃から検出されたアリスの指紋も、彼女が事件に関わっているのではないかという疑惑に拍車を掛けているのですが、これが最後に鮮やかにひっくり返され、彼女の無実の証明につながる手がかりとなっているところが見事です。若干アンフェア気味といえないこともないのですが、事件が起きた時には銃に触れていないという彼女の証言を信用すれば、事件の前に銃に触れていたことは明らかですから、ヴェリティ氏の仮説にも説得力があると思います。

 また、探偵が“犯人”という真相にもかかわらず、被害者が徹底的に悪人として描かれているために後味が悪くなっていないところも、うまく工夫されていると思います。

2003.04.01読了

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