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ウルフ連続殺人/W.L.デアンドリア

The Werewolf Murders/W.L.DeAndrea

1992年発表 斎藤健一訳 ミステリ・ペイパーバックス(福武書店)

 この作品では、訳者あとがきにも書かれているように、ベイネデイッティ教授を除く主要な登場人物たちがそれぞれ交代で視点人物となっていますが、当然この中に犯人であるロマネスクも含まれているわけで、その箇所はかなり微妙な書き方がされています。例えば、あの襲撃のショック(中略)はけっして忘れられないだろう”(180〜181頁)という箇所では、“狼男に襲われるショック”ではなく、自分がゲッツ博士を襲った時のことを回想しているわけです。また、“窓を開け放った。そしてベッドに戻った”(182頁)という表現は、一見窓を開けて眠ったように読めますが、実際には窓から外へ抜け出すため、シーツを取りに戻ったということなのでしょう。

 ところが、これだけ注意深く書かれているにもかかわらず、不用意に感じられる箇所があります。“今モン・サン・ドゥニで完全に無害な人物がいるとしたら、あの電話の主しかいないだろう”(183頁)というスパークの独白がそれです。この時点で最も無害だと思われている人物は、他ならぬロマネスク博士です。この一文は展開上不可欠だとは思えず、早い段階で無用な疑いを招いているとしか感じられません。

 おそらく、作者はマルクスダミーとしたつもりだったのでしょう。作中では、例えば事件の現場にタバコの吸い殻を捨てようとするなど、彼に捜査の経験がないことが示唆されています。ところが、これがあまりにもあからさますぎるため、あまりダミーとして機能していないように思われます。また、彼が視点人物に設定されていない(はず)こともこれに拍車をかけています。このあたりはもったいないとしか言いようがありません。

 ただ、犯人指摘の直接の手がかりとなるロマネスクの頬の傷や、ゲッツ博士の死体が聖火台で焼かれなければならなかった理由などはやはり見事です。そしてもう一つ、犯行が満月の夜に限られていた理由が明かされるラストは鮮やかです。その理由も説得力のあるもので、よくできたエンディングといえるでしょう。

2001.04.05読了

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