ミステリ&SF感想vol.20 |
2001.04.09 |
『青列車は13回停る』 『400年の遺言』 『枯草熱』 『ウルフ連続殺人』 『この人を見よ』 |
青列車は13回停る Le train bleu s'arrete treize fois... ボアロー/ナルスジャック | |
1966年発表 (北村良三訳 ハヤカワ・ミステリ1042・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
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400年の遺言 龍遠寺庭園の死 柄刀 一 | |
2000年発表 (角川書店) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 400年の歴史を持つ龍遠寺に隠された謎と、現代の事件の謎とが見事にリンクした作品です。まず龍遠寺で起こった事件については、泉親子がともに庭園に隠された秘密を調べていたという背景があり、また歴史事物保全財団の事件では、泉真太郎の遺品が持ち去られた上に、被害者の手首が龍遠寺の庭に埋められていたことで、どちらの事件も龍遠寺庭園の謎に密接につながっていきます。
そして、この歴史的な謎が非常によくできています。庭園には“思想の井戸”や“子の柱”、“夫婦灯籠”といった謎めいた構造物がふんだんに配置されており、その秘密が少しずつ明らかにされ、すべてが鮮やかに真相へと収束していく終盤の展開は実に魅力的です。 一方、事件自体もよくできています。特に歴史事物保全財団の事件については、犯行当時、ある人物を追っていた探偵によって監視されていた上、ひそかに仕掛けられた盗聴器によって“音の手がかり”が残されているというユニークな状況になっています。捜査陣がこの手がかりを丹念に調べていく過程は、非常に興味深いものです。 さらにもう一つ、主人公・蔭山自身の物語も見逃せません。死に瀕した泉繁竹の最後の言葉を聞いた彼は、その言葉に秘められた真意を探るために事件に関わっていき、泉一家の人となりを深く知ることになります。終盤に蔭山が到達する真相、そして爽やかなラストは、深く印象に残ります。 歴史的な謎、事件の謎、そして人間ドラマが三位一体となった傑作です。 2001.04.01読了 [柄刀 一] |
枯草熱 Katar スタニスワフ・レム |
1976年発表 (吉上昭三・沼野充義訳 サンリオSF文庫28-A・入手困難) |
[紹介] [感想] 『捜査』にも似たミステリ風小説、というよりは、同じテーマに再挑戦したというのが正しいかもしれません。不可解な死を迎えた被害者たちの隠された共通点を抽出し、怪死事件の真相に迫っていくという物語です。相変わらずとっつきにくい文章ですが、主人公である元宇宙飛行士のキャラクターのせいか、『捜査』よりも読みやすく仕上がっているのではないでしょうか。ただ、本筋とあまり関係のないエピソードもあり、やや散漫な印象も否めません。
ところで「訳者解説」によれば、“枯草熱”というのは“花粉症”のようです。この頃(日本では1979年に出版)はまだ花粉症の患者がかなり少なかったのだと思うと、感慨深いものがあります。 2001.04.03読了 [スタニスワフ・レム] |
ウルフ連続殺人 The Werewolf Murders ウィリアム・L・デアンドリア | |
1992年発表 (斎藤健一訳 福武書店ミステリ・ペイパーバックス ・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 『ホッグ連続殺人』から10年以上間をおいて発表された、ベイネデイッティ教授を主役とする作品です。型破りなアイデアを中心とした前作と比べて、よりオーソドックスなフーダニットに仕上がっています。途中、やや不用意にも感じられる記載もあるため、犯人の目星をつけることはさほど難しくないかもしれませんが、手がかりや伏線はなかなかよくできています。
独特のくせのあるベイネデイッティ教授らの言動も含め、十分に楽しめる作品です。 2001.04.05読了 [ウィリアム・L・デアンドリア] |
この人を見よ Behold The Man マイクル・ムアコック |
1968年発表 (峯岸 久訳 ハヤカワ文庫SF444) |
[紹介] [感想] この作品のネタは、上の紹介だけでも大半の人にはわかってしまうでしょう。しかし、この作品ではネタバレはさほど重大な問題ではありません。西暦29年のエルサレムへと旅立った主人公のカールが“どのように生きたか”。この非常にシンプルなテーマを徹底的に追求したのがこの作品です。多用されるカットバックによって、幼い頃からのカールの人生が多数のエピソードで克明に再現されると同時に、たどり着いた過去の世界で自分のなすべきことに気づいていく彼の運命が描かれています。
イエスとの出会いを経て、自分の果たすべき役割を見つけだした時、カールは多少なりとも満足感を得ることができたのか。それともその胸にあるのは諦念だけだったのか。苦悩し続ける主人公という設定と、SFアイデアとの出会いによって、深みのある物語が生み出されています。 2001.04.08読了 [マイクル・ムアコック] |
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