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風が吹く時/C.ヘアー

When the Wind Blows/C.Hare

1949年発表 宇野利泰訳 ハヤカワ・ミステリ178(早川書房)

 原題“When the Wind Blows”(マザーグースからとられているようです)は『風が吹く時』と訳されていますが、「管楽器奏者が演奏する時」という意味も込められていると思われます。実際には問題のクラリネット奏者は演奏していなかったのですが。

 捜査はあちらこちらに寄り道をしながらも、その焦点は謎のクラリネット奏者に当てられているわけですが、オーケストラでクラリネットを演奏できる人物は限られていて、捜査は暗礁に乗り上げます。そして終盤に突然提示される、プレイグ交響曲にはクラリネットが必要ないという事実は、まさに爆弾のような破壊力を秘めています。その鮮やかさは特筆すべきものですが、このシンプルな手がかりを最後まで隠しておくために、作者はエヴァンズの人物造形にかなり気を使っているのではないかと思われます。例えば、ミス・カアレスと最後に言葉を交わしたのは自分だという事実を中盤すぎまで口にせず、“ぼくは元来、常識的な人間ではないんじゃ”(155頁)と言い切ることで、プレイグ交響曲の件についても説得力が出ているのではないでしょうか。

 動機はヘアーお得意の法律絡みのものですが、意外ではあるものの、やや無理があるようにも感じられます。ディクスン本人はそのままで爵位をつぐことができるわけですし、まだ生まれてもいない子供のためにそこまでするでしょうか。とはいえ、バセット夫人の人となりを描くために挿入されたように見えたディクスンの襲爵のエピソードが、見事な形で伏線となっているのには感心させられます。

2001.11.04読了

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